「おれはルフィ…またの名を海賊王ゴール・D・ロジャーだ!」 作:青森の桜前線
「………」
おれはひとりで舟を漕いでいた。月の涙が海を濡らして、遠くの水平線では太陽の光が漏れ出ていた。
“このヒトヒトの実を船長に預ける”、か…。
「まったく…そういうのはおれの台詞だろうが!」
だが、まあいい。おれはルフィだからな、ロジャーの人格を持っているがこの体、この命は紛れもなくルフィのものだ。それに、悪魔の実というのも悪くはねぇ…面白そうだしな。おれはラフテルでジョイボーイの残した宝を見つけて、最高に心が高鳴った。そして、お前と同じ時代に生まれたかったと心の底から願った。こりゃあ…そういうことなのか?ジョイボーイよ。
しかし、ラフテルで世界の全てを知ったと思っていたおれでも、ニカの名前は知らなかった。シャンクスは、ニカとジョイボーイが同一人物である可能性は高いが確証はないと言っていたが、正直おれはそんな確証を頼りに今まで生きてきたわけじゃねぇ。いつだって心の赴くままに、自由に生きてきたつもりだ。これが何の実だろうが関係ねぇ、食ってやろうじゃねぇかっ!
シャンクスから返された麦わら帽子を被り、舟の上で寝転んだ。見上げた空には夜と朝、月と太陽が混在していた。朝が焼ける前に、皆が起きる前に、おれは悪魔と契約する。
「……うっ」
クソまずっっ…!!
それから数週間経ち…
場所はフーシャ村、マキノの酒場“PARTYS BAR”。
「だっはっはっ!“ルフィ”!!なんだその顔はっ!」
昼下がりだと言うのに海賊たちは酒を飲み馬鹿騒ぎ。その中心にいたのは、6歳の少年モンキー・D・ルフィだった。彼は自分の頬を両側に引っ張って周りに変顔を披露する。それを見てシャンクスたちは涙が出るほどに笑い、店主のマキノは複雑そうな顔をする。さて、なぜマキノがこんな顔をしているのかその理由を説明しよう。
今から数週間前、弟のように可愛がっていたルフィが悪魔の実を食べたことを告白した。勿論マキノは取り乱してどこで食べたかと詰問したところ、赤髪海賊団の船に忍び込んで食べたとのこと。これを聞いたマキノは絶叫とともに絶望した。悪魔の実といえば売れば1億ベリーはくだらないという宝物。そんな物を無断で海賊から奪って食べたとなればルフィの命はおろか、この村の存在そのものが危ないだろう。そうこうしていると、赤髪海賊団船長のシャンクスがふらりと酒場を訪れた。その瞬間マキノは心臓が止まりかけたが、努めて冷静に振る舞った。しかし、ルフィがシャンクスに発した次の言葉でマキノの顔が真っ青になる。
『お、シャンクス!食ったぜ…悪魔の実!!』
何言っちゃってるのこの子ーーー!!??マキノは混乱して支離滅裂な言い訳のような、擁護のような、言っている彼女自身も何を言っているのか分からない言葉を羅列し始めた。しかし、返されたシャンクスの言葉は彼女の予想もつかないものであった。
「……そうか。よし、メシでも食べるか“ルフィ”!」
その後も、ルフィが悪魔の実を食べたことを咎めるようなことは言われなかった。不思議だった。この人たちは子供に勝手に食べられたくらいでは怒らないほどの聖人なのか、そうも思ったが、考えても分からないのでマキノは考えることを放棄した。
「それで…なんでこんな仲良くなっちゃうかな…?」
ルフィを中心として赤髪海賊団の皆さん。そして彼らに混じってフーシャ村の人たちが何人が混じって彼らと酒を飲んでいた。それまではいい、それまでは想定の範囲なのだが…
「こぉらっ!この海賊ども!!もっと静かに飲めんのかぁ!」
(なに一緒に飲んでるんですか村長ーー!?)
口ではこう言っているが、わざわざここに来て酒を飲んでいるのである。まあ、そういうことだろう。
「そう言わないでくれよ、スラップさん。それにしてもいいのか?こんな昼間から飲んでてよ」
「はっ!近頃はなぜかここらの海域に近づく賊どもが少ないからな。こんな平和な村で、ワシがやることなんぞありゃせんわい!」
「ほう、そりゃ良いことだ。それじゃあもっと飲もうか!スラップさん、野郎どもぉ!」
「「「おおおお!!!」」」
「言われなくても飲んでるわいっ!」
「はぁ…」
すごい賑やか。うるさいくらいに賑やか。でも、
「わはははっ!」
ルフィが楽しそうなら、これも悪くないかもね。
「ねぇ!ルフィ!君も食べてみなよ、マキノさんのパンケーキっ!」
おれがひと変顔を終えていつもの席に戻ると、3段重ねパンケーキを大事そうに持ったウタがこちらにかけてきた。傍に添えられたフルーツとクリーム、上から下へと滴り落ちるメープルシロップ、そして何よりきつね色に焼かれたパンケーキから香るほのかな甘い匂い…!彼女言う通り美味しいのは一目瞭然だった。
「いやいいよ、いつも食べてるからな。うめぇだろ?マキノは料理上手なんだ。」
「うんそうだね!…よし、決めた!マキノさん!私にパンケーキの作り方教えてっ!シャンクスに食べさせてあげるんだ!」
「うふふっ、分かったわ。それを食べ終わってからね?」
「はーい!」
どうやらウタは人懐っこい性格のようだ。会って数週間のマキノを姉のように慕ってる。マキノも妹ができたみたいで嬉しいだろう。ウタの天真爛漫な笑顔から、おれは彼女が赤髪海賊団でどれだけ大事にされてるかが分かった。聞けばウタを拾った時、彼女は宝箱の中に入っていたそうだが、…どうやらこれは本物の箱入り娘らしい。おれは堪らずオレンジジュースを酒のように呷った。
「かしらぁ〜…ヒック、次はどこに行くんだぁ…?」
少し騒ぎが落ち着いて、ウタとマキノが奥の厨房で一緒にパンケーキを作っている音が聴こえてくる。それを肴にひとり静かに酒を飲んでいるシャンクスに、酷く酔っ払った様子のヤソップがカウンターに突っ伏しながら聞いてくる。
「そうだな…、ウタの夢のこともある。一度“エレジア”に足を向けてみるのも悪くはない」
「おおうっ、エレジアといやぁ世界一の音楽の国として有名だもんな…!ウタも喜ぶぜぇ?」
刹那、おれの全身に電気が走ったような感覚が襲う。心臓がどくんどくんと跳ね上がってリズムを刻み、頭の中には誰かの声が響いた。
『エレ…ジア。…トット…ムジカ…。』
エレジア?トットムジカ?その言葉を聴いた瞬間。次にはおれの脳内にあるビジョンが浮かんだ。
『待ってシャンクスっ…!置いてかないでぇッ!?』
『止めるんだウタ。赤髪海賊団はこの国を滅ぼした、お前は騙されていたんだ!』
「ウソ!そんなの絶対ウソッ!だってみんな私のこと…ッ」
「なんだ…?今のは」
唐突に意識が現実世界に引き戻される。目の前には相も変わらず陽気な海賊たちがいた。
予知夢、白昼夢のようなものか?それにしてさっき叫んでた女の子はウタだよな?それに赤髪海賊団が国を滅ぼしたって…。こいつらが何の理由もなくそんなことするか?それにウタを、家族を置いていこうとしていたように見えたが、いったいどんな理由があって?
所詮は夢だ。そうおれは自分に言い聞かせたが、どうも胸の騒めきが止まらなくて落ち着かなかった。
そしておれは決心する。
「シャンクス!次の航海おれも連れていってくれ!」
ウタはシャンクスの娘だ。そしてそれは俺にとっても無関係ではない。言うなればおれはウタのじいさんみたいな存在だ。奴とその仲間たちが可愛がっている孫娘に何かあるかもしれないという時に、それを黙って見過ごせるほどおれは薄情な男ではなかった。
「ルフィ…お前はまだ子供なんだ。俺たちの航海は危険なことが一杯だぞ?」
「関係ねぇ!第一ウタはいっしょに冒険してるじゃねぇか!」
「ウタは…あいつは危ない時には隠れてるからな。それに俺たちがいる、これまでも傷ひとつだって負わせちゃいねえよ。」
「…そりゃあ、おれもウタと同じようにしてりゃだいじょうぶだってことだよな?」
「………」
「おい!なんとか言えよシャンクス!」
しまった、と口を手で押さえるシャンクスに対して、ルフィがこれなら道理は通るだろと言わんばかりに責め立てる。その余りの剣幕に、シャンクスは珍妙な面持ちで疑問を呈する。
「なあルフィ。お前どうしてそこまで俺たちの航海に着いて行きたがる?」
「…なんとなくだ!」
「はぁ…?」
ルフィお前なぁ、そう次なる拒否の言葉を述べようとした時、煙草の匂いがふわりとして肩にひとつ手が置かれる。
「いいじゃねェか、乗せてってやろうぜシャンクス。」
灰色がかった長い黒髪を後ろで纏めて、胸元が大きく開いた襟なしの黒のポロシャツを一枚羽織り、煙草をふかす男。赤髪海賊団副船長“ベン・ベックマン”がそこにいた。
「ベック…!いや、だがなぁ!」
相棒に止められたシャンクスがなおも反論しようとすると、次第に周りで飲んでいた仲間たちが集まってくる。
「お頭〜、おれたちは賛成だぞ。面白そうだ!」
骨付き肉を頬張る巨漢、ラッキー・ルウ。
「本当はおれの息子も連れてってやりたいところなんだがなァ…、アイツにはアイツの人生があんのさ。ルフィ!お前も呼ばれてんだろぉ!海賊旗に!!」
黄土色のカーリーヘアーをバンドで上にたくし上げマスケット銃を背負う男、ヤソップ。
「俺は心配だ!こいつはウタよりも小さいんだぞ。…だが、なんかあったら俺に言え、なんでも治してやるからよ」
金髪のオールバックで周りよりかは歳若い男、ホンゴウ。
「んー…ベックマンさんがそう言うなら、俺は構わないっすよ」
髑髏のマークの黒いバンダナで頭を覆った好青年、ライムジュース。
「ハッハッハッ!楽しみだなァモンスター!」
「キ!キーっ!」
目元の隈とスキンヘッドが印象的なボンク・パンチと、その相棒の猿のモンスター。
「エレジアまでの道中、賑やかになりそうだ。」
右腕には大蛇の刺青にベージュのサングラスを掛けて穏やかにそう呟く男、ビルディング・スネイク。
「ウタも…喜ぶ」
厳めしい顔つきにダークブラウンの野性的な長髪をした赤髪海賊団一の巨漢、ハウリング・ガブ。
いつの間にかおれたちの周りには海賊団の幹部連中が全員揃っていた。シャンクスはぐるりと全員の顔を見渡して、最後のガブの発言に反論する。
「いいや!ウタが喜ぶかどうかは分からないだろ!?」
「同年代の子がいた方が嬉しいんだよ。俺たちの中にガキはいねェんだから、ウタにとってもいい刺激になる。」
「同年代って言ってもロジ」
そこまで言いかけた所でこちらに走ってくる足音が二つ。それに反応して、その場にいた全員が音のする方へと視線を向けると、そこには両極端な表情をした少女と女性がいた。
「シャンクスっ!」
「ルフィッ!」
「おおウタ!」
「げっ!マキノ…!」
ウタはそのままシャンクスのところまで駆けていき、小さいパンケーキが三つ載せられた皿を彼の前に差し出す。
「私が作ったんだよ!食べてみて!」
ウタがパンケーキをフォークに突き刺して、シャンクスの口元まで持っていく。
「…!凄いじゃないか!どれ………。おおっとこりゃ美味い、今まで食べたパンケーキの中で一番だ!」
「本当っ!?」
「ああ。」
シャンクスから褒めて貰えて顔がふにゃってるウタの横から、ルウが寄ってくる。
「お頭ぁ、おれも食いてぇよ、ウタの手づくり」
「おいおい…馬鹿言っちゃいけないぞルウ。これはウタが
べー、と舌を出して意地悪をするシャンクス。対してウタは屈託のない笑顔でこう言った。
「うんっ!みんなも食べていいよ!!…量は少ないけどね、はい!フォーク!」
「「「やったー--!!!」」」
人数分のフォークを両手で持ち、そこにいた幹部たち一人ひとりに手渡しする。そして受け取った者たちから皿のパンケーキを小さく切って食べていき、皿の上のパンケーキはきれいさっぱりなくなった。その様子を呆然と見ていたシャンクスは、ひとりでから笑いしてぬるくなった酒を喉に流し込む。その隣にドカっと座ったベックマンは、煙草をふかしながら励ますように言葉を発した。
「…そんな落ち込むな。それに良かったじゃねェか、“ファーストバイト”貰えてよ」
「………ん?」
ベックマンの一言を受けて目をかっ開いたシャンクスは、グラスに残っていた酒を飲み干すと、椅子の上に飛び乗り叫んだ。
「…野郎ども!何チンタラ飲んでんだ!海賊ならもっと騒げ、歌え、踊れ!今日は無礼講だぞっ!!わははは!!」
「まったく…、アンタって人は」
先ほどまでとは打って変わりご機嫌そうに笑うシャンクスを見て、ベックマンは静かにその口角を上げた。
さて、その頃おれはというと
「ルフィ!あなたまた船長さんたちに我儘言って!子どもが海に出れる訳ないでしょう?そういうのは大人になってからにしなさい!」
「で、でもよ…マキノ」
「で!も!じゃ、ありませんっ!!」
そう言い終えると今まで叱っていた分息が切れたのか、頭を抱えながらしばらく黙り込む。そんなマキノに対して、シャンクスが珍しく酔っぱらった様子でこう提案してくる。
「そんなに心配ならっ一緒に来ればいいじゃないか…!」
「へ…?」
思いがけない一言にマキノが固まる。シャンクスはニコニコ笑いながら酒瓶を振るい、それを天高く掲げる。
「お前らもそれでいいかあ!!」
「「「おおう!お頭!!」」」
「あっはっは!決まりだなぁ!」
笑うシャンクス、未だに固まっているマキノ、結局乗せて貰えることになって喜ぶおれ、マキノがついて来ると知って飛び跳ねるウタ。
その後、一晩中酒場からは笑い声が絶えず、次第に空の色も変わりゆく…。
数日後。
「野郎ども!帆を張れッー!!」
フーシャ村の港から一隻の海賊船が出航する。ウミネコが鳴き、三つのマストに張られた帆は風を受けてその船体を前へ、前へと推し進める。
「目指すは音楽の都“エレジア”だ!!!」
船長の音頭を受けて船員たちは一斉に雄たけびをあげる。その中に混じって小さな男の子も一緒に声を張り上げていた。甲板にいる皆が笑い、これからの冒険に胸を躍らせていた…そう。
「はあ…。」
ただひとり、この女性を除いては。
赤髪海賊団の幹部連中の話し方が分からんで。