ホォォォォォォスバトォォォ!それは人生の縮図、トレーナーのロマンである!
「で、俺はなんで血圧計に腕を入れているんだ?
しかも、なんかこの機械、ボーグに接続されてるし」
「これは血圧計型ボーグシンクロ装置だよ。
これを使って、ボーグが君に合うように調整するんだ。
ワンコインボーグなんかに秒殺されて愛機を奪われたからねえ……。
そのマイナスを少しでも埋めるためにはこうするしかないんだ」
「秒殺は余計だっての……」
タキオンの研究室兼カフェが色々と集めてる部屋。
そこに灰原は代用のボーグを受け取りに来ていた。
「しかし、真っ黒なボーグだな……。
ブラックゴールド団の残党と戦ったのを思い出すな」
「へえ、あの世界征服一歩手前まで行った連中と?
それで、強さはどんな感じだったんだい?」
「いや、手強かったのなんの……。
そもそも、それが最初の俺のバトルだったし……。
なんか首領を名乗ってたおっさんだったな。
今思い返してみても、なかなかの実力者だったぞ?
多分、今やり合っても苦戦する予感がするな。
まあ、死んじゃったけど」
「なるほどね、最初から君は強かったわけだ。
……しかし、疑問があるんだよ。
そんなに強いのなら、どうしてそれを使う?」
タキオンは灰原が付けている白い手袋を指差した。
「高次元式オプションパーツ収納手袋……。
いちいちパーツを取りに行くのが面倒になった職人の発明品だったはずだ。
しかし、それをボーグバトルに活用しようなんて考えたのは君だけだった」
「……ボーグ本体にはパーツを付けてないだろ?」
灰原の笑みに、タキオンも笑顔で返した。
「ははは……そう、確かに君はルールを破っていない。
ノーオプションバトルは、あくまでパーツをボーグ本体に付けなければ問題なしなんだ。
しかし、君はそんなルールの穴と君自身の実力を利用したんだ」
タキオンはボーグを指でピンと弾く。
すると、灰原もうっと唸り声を上げた。
まるでボーグの痛みが伝わったかのように
「おい!突然何すんだ!」
「それだよ、それ。
実力のあるボーガーほど、ボーグのダメージを共有するものだ。
つまるところ、ボーガーとボーグは一心同体ってことになるね」
「……ああ、そうだな」
「逆を言えば、ボーガー側の状態だってボーグに伝わる、そうだろう?」
「……ルール違反じゃないだろ?」
「ああ、ルール違反じゃないね。そして、だからこそ興味深いんだ!!
ボーガーがオプションパーツを所有するだけで、ボーグもその効果を発揮できるなんて!
君たちボーガーはいつだってとんでもない限界突破をしてくれるからこそ面白い!」
タキオンがすっかり興奮しきったところで、機械からピーっと音が鳴った。
調整が終わったのだ。灰原はボーグを手にして、椅子から立ち上がった。
「……最初に気がついたのは、練習の時だったな。
なんだかいつもよりもボーグのスピードが出ていたんだよ。
それで色々と確かめたら、ポケットに速度強化のオプションパーツが入ってたんだ。
たまたま友人から借りてたものなんだが……それで閃いた。
もしかしたら、パーツ持ってるだけで、付けた場合と同じ力出せるんじゃないかって」
「それが”黒手袋”の誕生だったってわけだ」
「俺だってボーガーなんでな。勝つためなら手段は選ばない。
……もちろん、ルールの範疇で、だ。だから、この戦法で挑んでるんだ。
たとえどれだけ罵られようが、勝てばよし。それがボーグバトルだろう?」
「そうだね、それがボーグバトルだ。
……しかし、その勝てばよし精神、競バにも少しは欲しいね。
ライスシャワー君の件もあるんだけど、たまにね……」
「いやいや、それでいいと思うぞ?
選手も観客も全員が勝てばよしなんて精神になったら……。
それこそ世も末な予感がするからよ……」
研究室から出た灰原はさっそく素振りをしたい衝動に駆られた。
しかし、校舎内で突然ボーグを振りかざすのは大変危険すぎる。
下手に手から滑ってしまい人に当たれば、死亡事故にも繋がるのだ。
ボーグはおもちゃであって、おもちゃでないのだから……。
「……ボーガーさん」
後ろから声をかけられた。ターボだった。
「おや、ターボ、どうしたんだい?」
「ターボ……勝つもん」
「えっ?」
「ターボ、引退したら、お前に勝ってやるもん!
正々堂々と戦って、勝つもん!
変なレーザー撃ってくるようなボーガーさんに負けるわけにはいかないんだ!」
「ああ、簡易取り付け式レーザー砲のことか……。
あれ、簡単に勝てるけど、外れた時のリスクが怖すぎて使うのやめたんだ」
「とにかく、待ってて!ターボ、引退するまでにたくさん練習するから!
競バもボーグバトルも、どっちも両立してやるから!」
それだけ言って、ターボはさささと走り去った。
……突然の宣戦布告だったが、悪い気分ではなかった。
むしろ、新たな強敵と渡り合えるという期待と、謎の希望が湧いたのだ。
きっと、ターボのような子が、ボーグ界隈に新たな風を吹かせてくれるに違いない。
それがどんな風であれ……楽しみなものだった。
「それはそうと、ターボをボーガーの道に引きずり込んだのはいただけませんなー」
「ターボさんの趣味と人生に口を挟む気はありませんが……。
それでも、ある程度の責任は今からとってもらいます」
「あなたをえいえいむん、するね」
灰原はその晩、ずっと保健室で寝込むことになった。
「灰原、全治数時間の休養だ……くそっ……」