Santa Maria 作:チャイナ乳首ジョイスティック
硝煙、それからマズルフラッシュ。薄い月明かりの下、ときおり爆ぜる火薬がその巨躯を照らし出した。
それは――敢えて例えるなら、
それは、ラプチャーと呼ぶにはあまりにも大きく、硬く、異質だった。
「フラウ! 状況報告!」
『イエス、イーズィー。現在未確認のラプチャーと交戦中。オーシャン-3、08-2、12-35が全壊、捕獲されています』
「増援は!?」
『周囲に強力なノイズ・ジャミングが張られています。秘匿回線も繋がりません』
ソルジャーE.G.――その中でも仲間から「イーズィー」と呼ばれている彼女は、部下の報告を聞いて自らの死地を悟った。
「……ごめん。撤退するべきだった」
「いえ。交戦は避けられませんでした」
遮蔽物に身を隠すなか、すぐ隣でソルジャーF.A.が首を横に振った。顔のほとんどを覆うバイザーでその表情は見えないが、彼女の声はどこか優しげだ。
「死んだはずのマリアンからの救援信号です。罠だと分かっていても行かざるを得ない……でしょう、イーズィー」
「……そうだね」
マリアンという名のニケは、物腰の柔らかさと底なしの親切さで他のあらゆるニケから好かれていた。彼女たち量産型に対しても彼女の姿勢は変わらず、その愛情の深さに救われた個体も少なくない。
かく言うイーズィーもその1人だった。ただの使い捨て、ロット番号以外に個性を持たない彼女に「イーズィー」という名前をくれたのは他ならぬマリアンだった。
だからこそ――行かざるを得なかったのだ。しかしそれはあくまでイーズィーの私情。仲間の命を預かる立場としては軽率な判断に過ぎた。
故に、イーズィーは責任を取らなければならない。
「……ソルジャーE.G.より全隊に通達。1分後にバーストモードへ移行」
本来であれば指揮官と補給線を確保した状態でのみ推奨されるバーストモード。しかしここに於いて、そのどちらも望むべくもない。
ならば、ならば。これはもはや戦闘ではないのだ。
「ただし、ソルジャーO.W.のみ撤退せよ」
『なッ……!?』
インカム越しに聞こえた驚愕の声に、隣でF.A.がクスリと笑った。
『イ、イーズィー! 私だって戦える!』
「わかってるよ。でも、この偵察部隊で1番足が速いのはあなた。偵察部隊の最優先事項は『情報を持ち帰ること』――」
イーズィーは自虐的な笑みを浮かべた。判断の遅い隊長で申し訳ないが、それでも私はみんなのリーダーだから。
「隊長命令だよ。あなたは本部に帰投して、このラプチャーの情報を伝えなければならない」
『でも!』
「でももだってもないの、分かったら早く行きな。散った命に意味を持たせるのは生者の特権だよ?」
その言葉にO.W.は一瞬押し黙り、それから絞り出すような声で『ご武運を』と返した。ゴーグル内に表示されたマップ上のO.W.を示す点がどんどん離れていくのを見届けて、イーズィーは武器を構える。
「さあ、総員戦闘準備。バーストモード以降まで3、2、1──ファイア!」
残っていたニケが一斉に遮蔽物から身体を出し、持てる限りの最大火力でラプチャーを撃つ。金属音、爆発音、破裂音が鳴り響き、お返しとばかりにラプチャーから砲撃が飛んでくる。
隣のF.A.が凶弾を受けて上半身を失うのを見ながら、イーズィーは思う。これで良い、これしか無いんだ。私たちは時間を稼いで、O.W.は逃げ延びる。
そんな素敵な想像は、土煙の中から姿を現したラプチャーを見て吹き飛んだ。
「な……なに、アレ……」
それはやはり、例えるなら客船なのだ。何故ならば、船首にあたる部分には、首のないニケの死体が女神像のように飾られていたから。
その首なしのニケの服装に、イーズィーは見覚えがあった。
「あ……マリアン、姉さん……?」
そんなところで何しているんですか。帰りましょうよ。フラウが新しいパジャマを自慢したがってましたよ。シャナは次こそ大富豪で勝つんだって。
それで、それで――。イーズィーの思考は、弾丸の嵐によって肉体ごと千々に吹き飛ばされた。
モブニケ、武装JKみを感じてとても良いですね。
このお話はそんなに長くならない予定です。