他に何も言うことないので本編どうぞ。
「僕が…僕こそが!絶対!絶対!!正しいんだーーー!!!!」
そう叫ぶと、リドルの体から黒いインクのようなドロドロとした液体が流れ出てくる。その液体はやがて形を成し、ドワーフ鉱山にいた化け物と似通ったものへと変化した。リドルの服装も変わり女王のようになり、右目にオーラが漂う。
『「ククク…ハハハハハ!僕に逆らう愚か者どもめ。そんな奴らは僕の世界にはいらない。僕の世界では僕こそが法律、僕こそが世界のルールだ!返事ははいリドル様以外許さない!!僕に逆らう奴らはみんな首をはねてやる!アハハハハハ!!!」』
リドルの声と、もう一つ低い声が二重になって聞こえてくる。
「あぁ、なんて事だ!私がついていながら生徒をオーバーブロットさせてしまうなんて!」
「…オーバーブロット?」
「それってなんなんだゾ!?」
「オーバーブロットは魔法士が一番避けねばならない状態です。彼は今、負のエネルギーに囚われて感情と魔力のコントロールを失っている!」
「…なるほど、暴走状態ってことですね。」
「このまま魔力を放出し続ければリドル自身の命も危ない。」
「い、命!?」
「とにかく生徒の命が最優先です!他の寮生は私が避難させましょう!ローズハート君の魔力が尽きる前に正気に戻さねば。命を失う事も最悪ですが、さらに最悪なのは…とにかく、君たちは他の教員と寮長達に応援を要請して…」
「だらぁぁぁ!くらえ!!!」
魔法が飛ぶ。
「「「は!?」」」
「いでよ!大釜!!!」
「ふな〜〜〜っ!!!」
エースの魔法、それにデュースが呼び出した大釜にグリムの火属性魔法が放たれる。
『「…貴様ら、何のつもりだ?」』
暴れ回っていたリドルがこちらに意識を割く。
「ちょっ!?お前ら何やってんの!?」
「アイツ、あのままじゃ大変な事になっちまうんだゾ!?」
「流石にそこまでいくと目覚めが悪い。それに…!」
「まだ『僕が間違ってました、ごめんなさい』って言わせてねーし!」
「…
「お前達…分かった。少しの間ならリドルの魔法を上書き出来る。その間に頼む!」
「君たち待ちなさい!危険です!」
「………
「え?」
体半身を炎で燃やす。
「そっちがそう来るなら、私はこうするまで。化け物対決と…」
「監督生くんまでオーバーブロットを!?」
「…違いますよ、クソカラス。魔術ですよーだ。…ふむ、あの時よりは弱い、か。ま、仕方ないか。とりあえず、リドル寮長を止めたら良いんでしょ?なら簡単だ。後は勝つだけだからね。」
「…カエデ?ちなみに聞くけど、それってドワーフ鉱山の時の…」
「数倍の力だよ。」
「えっ寮長死なない?」
「大丈夫。加減はするからさ。」
右手から業火を放ち、一時的に円形のフィールドを作る。
『「なんのつもりだい?」』
「そりゃああなただって分かってんでしょ?」
「ここまで来ればやる事は一つさ。あなたがいつもやってたことさ。」
炎で作られた翼を広げる。
「大丈夫、すぐに終わる!」
翼から大量の赤い羽が凄ましい熱気とともにあたりへと舞い散っていく。
『「覚悟しろ!」』
リドルの後ろにいる化け物が薔薇の木で叩き潰そうとしてくる。
ひらりと回避し、薔薇の木を伝ってリドルの真上まで移動する。
「さぁ倒れろ!プロミネンス・フェザー・デスペレイション!」
あたりの羽が全て実体の無い炎の剣へと変化する。
「…私から言うべき事は、何もない。」
途端、全ての剣がリドルの後ろにいる化け物へと飛んでいく。
やがて、土煙を起こし、姿が見えなくなる。
「か、カエデ!?やりすぎだって!」
「大丈夫、生きてるよ。手応えがそこまで無かったし。」
『「うぎいいいいい!!!!!僕が、ルールだ!絶対に、絶対に絶対に絶対に!正しいんだァァァ!!!」』
「…まだやる?なら…」
不死鳥状態を解除する。
『「潰れろ!」』
「…見苦しいな。さっさと、戻ってほしいな。それに…アンタには、まだ心配してくれる人がいるんでしょう!?」
『「うるさいうるさいうるさい!僕が正しいんだ!」』
「…そう。だったら決着を着けるまで。」
「『
灰色だった髪の色が真っ白に染まる。
「『知りたいんだ、自分が一体何者なのかを。』」
6人の小さな影が現れる。
影達はそれぞれ剣や槍のような影を構えている。
「『ネームレス・トラベラー』」
影達は化け物に突撃していき、攻撃を繰り出す。
「…あなたはまだ戻れる。それは、あなたが一番分かってるはずだよ。」
最後に林檎をひとかじり。
いつの間にか化け物の姿が消えて、リドルが地面に倒れていた。
「カエデ…殺してないよな!?」
「多分殺してないよ。」
「多分!?」
「というか第一声がそれ?」
呆然としていたエース達の方へと歩き出そうとすると、何かの記憶が流れ込んできた。
「僕は、ずっと真っ赤な苺のタルトが食べてみたかった。たまに通りかかるケーキ屋さんのショーウィンドウに飾ってある、宝石みたいなタルト。」
今よりもずっと小さい姿のリドル寮長、それにリドル寮長によく似た女性がいる。…これはリドル寮長の母?そして、この記憶は、おそらく…リドル寮長の過去か。
「分刻みで詰め込まれるありとあらゆる学問。出来なければ出来るまで延長される学習時間。でも、これが僕の『普通』だった。」
…あぁ、本当に。リドル寮長と私の境遇はよく似ている。
彼も私も。似たような物。
次の場面では、過去のトレイ先輩、そして…あぁ記憶の隅にあるな。チェ、チェー…チェーなんとかさん。2人と遊ぶリドル寮長がいる。
「トレイとチェーニャと遊ぶのはすごく楽しかった。知らないこと、やったことない遊び。2人はたくさん教えてくれた。それから1日1時間だけの自習時間は毎日、お母様に内緒で部屋を抜け出した。」
…そう。まだ、そういう友達がいるだけマシだよ。
「真っ白なお皿に乗った、真っ赤な苺のタルト。僕にとってはどんな宝石よりもキラキラ輝いて見えた。一口食べたタルトは、すごく甘くて、食べたことがないくらい美味しくて…僕は一口ずつ味わいながら、夢中になって食べた。
…時間を忘れて。」
次の場面ではリドル寮長がリドル寮長のお母さんに怒られている場面。抜け出しているのがバレたんだろう。その後の場面では拘束がより厳しくなっている。
「ルールを破れば楽しい時間まで取り上げられてしまう。だからお母様の決めたルールは絶対に守らなきゃ。この街で一番優秀なお母様はいつでも正しいはずだから。でも…ねえ、ママ。なんでだろう?何故だかとっても胸が苦しいんだ。お誕生日だけでいいからいっぱいタルトが食べたい。お外でいっぱい遊びたい。もっといっぱいお友だちが欲しいよ。
教えて、ママ。どんなルールに従えば、この苦しさは消えるの?」
…あぁ、嫌だな。本当に。どこに行っても、変わらないのか。
そして。ようやく分かった。
リドル寮長と私の差は。
楽しかった、『春』の記憶がどれだけあるか。
リドル寮長には、トレイ先輩、チェーニャさんと遊んだ、苺タルトを食べたい記憶がある。
だけど、私には。
1年間を除いて、『冬』の記憶しかない。
ずべしゃあ。
抉れた地面に足を取られ、顔から地面に転ぶ。
「何してんだゾ子分…」
「痛い………あ、トレイ先輩。リドル寮長の元へと行ってあげてください。彼に必要なのは…」
「分かってる。…すまないな、監督生。」
「…私には、そっちは眩しいからね。」
やがて、意識を失っていたリドル寮長が目覚める。
「…はっ!」
「あ、目ぇあけた!」
「ハァ~…マジ、もう起きなかったらどうしようって超焦った…」
「はぁ…はぁ……僕は、一体…?」
「良かった。正気を取り戻していますね。」
「今はなにも考えなくていい。寝てろ。」
「あーっ、そうやって甘やかすからちょっと怒られただけで暴走とかするんすよ!庭は滅茶苦茶だし、こっちもヤバイとこだったんだからな!」
「確かに、ヤバかったな。…寮長の命が。」
「まったく。ストレスを溜めるとろくなことがねぇんだゾ。」
リドル寮長が、呟く。
「…僕……本当は、マロンタルトが食べたかった。」
「…へっ?」
「薔薇は白だっていいし、フラミンゴもピンクでいい。お茶に入れるのは角砂糖より蜂蜜が好きだしレモンティーよりミルクティーが好きだ。みんなと食後のおしゃべりだってしたい…」
「リドル…?」
「ずっと、もっとトレイたちと、遊びたかった…う、うう…うううっ…わぁあああん!」
「うっそ…あのリドルくんがギャン泣きしてる…!?」
「おいこら!泣けば許されると思うなよ!」
「お前もたいがい空気読まないな…」
「エースさいてー。」
「…俺も悪かった。お前が苦しんでるのを知ってたのにずっと見ない振りをしてた。」
「うっうっ、うう…」
「だから、今日は言うよ。リドル、お前のやり方は間違ってた。だからみんなにちゃんと謝るんだ。」
「…うっ、ぐす……ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」
「俺、寮長が今までの行動を謝ってくれたら言おうと思ってたことがあんスけど…」
「ゴメンの一言で済むわけねーだろ!絶ッ対許してやらねーーー!!!!!」
「えぇっ!?」
「この空気でそれ言う!?」
「ったりめーだ!こっちは散々コケにされたわけだし?せっかく苦労して作ってた手作りマロンタルトを捨てられたわけだし?カエデにも酷い事言ったわけだし?涙ながらに謝られたくらいじゃ許せねーなぁ?」
「コイツ、オレ様より根に持つタイプなんだゾ。」
「そんな…じゃあ、どうすれば……」
「…俺、しばらくは誕生日じゃないんだよね。」
「は?お前なにを言って…」
「だから、『なんでもない日』のパーティーのリベンジを要求する。俺たち、結局パーティーに参加できてねーし。そんで今度はお前がタルトを作って持って来いよ。あっ、トレイ先輩に手伝ってもらうのはナシだから!自分で苦労しろ!…そしたら、許してやらないことも、ない。」
「自分だってトレイ先輩や私達に散々手伝わせたくせに?」
「うるせぇ!外野は黙ってろ!…いい?」
「…うん、分かった。」
「うんうん、歩み寄りは美しきかな。一件落着ですね。…それで、監督生くん?」
「なんですか?」
学園長が叫ぶ。
「あのオーバーブロットもどきはなんなんですか!?それにアナタ、魔力が無いはずじゃ!?」
「それは自分だって聞きたい。だって、普通に魔力回路あるし。別に魔術が使えないわけじゃないし、なんなら魔術師に教えを乞いた事もあるし。」
「…魔術ですって?魔法ではないのですか?」
「…うーん。それは…言い方の問題かな?私がいた世界では人類が再現可能な物が魔術。人類では到底再現不可能な奇跡の御業、それが魔法です。…ってそんなことよりも!リドル寮長を先に!休ませてあげろ!」
「そうですね。私としたことが。クローバーくん、ダイヤモンドくん。彼の付き添いをお願いします。私は他のハーツラビュルの寮生に説明を。アナタ達は…ここの片付けをお願いしますね。では!」
瞬間移動かと間違うくらいの速さで飛び去っていく。
「ちょっ…待てやこのカラス!」
「カエデ、ストップストップ!くそっ、本当に力強いな本当に人間か!?」
「そこ疑います!?この非力な私に向かって!」
「非力…?」
「…まぁ?カエデは休んでていいぜ?疲れてるだろうしな?」
「は?バリバリ元気だが?この勢いで世界征服できるくらい元気だが?」
「なんだその例は…」
「たまにおかしくなるんだゾ。」
「元気だなお前ら…」
結局、誰が一番寮を直せるかで競った。
後日、なんでもない日のパーティでリドル寮長が作ったタルトにトレイ先輩が冗談で言っていたオイスターソースが入っており、そこでもちょっとした騒動になるのは別の話。
春の記憶とは、楽しかった記憶。
冬の記憶とは、辛い記憶。
これにて終曲ハーツラビュルと、なります。
小話を挟んで、サバナクロー編…と行きたいですが、その前に転生者FGOの方を先に更新します。1ヶ月半更新してませんから。
それでは。