では本編。サバナクロー編開幕です。
一話 全然説得力がない…
「ふなぁ~ん!ゴロンニャ~ン!ニャビニャビ~…」
「うるさい…」
「ンゴニャ~…どうだ…グリム様の力思い知ったか…」
「あまりにも大きすぎる寝言。もはやこれ起きてるのでは?」
と、その時グリムがはっ、と目覚める。
「暴君リドルをこらしめてやったゾ~…ふがっ!?あれ?オンボロ寮?なんだぁ~夢かぁ…リドルなんかメじゃない最強魔法士になれたと思ったのに。ガッカリ…」
「そんな簡単になれるわけないでしょ。修練しないとなれるものもなれないよ。」
「よしっ!じゃあ気を取り直して…今日も大魔法士になるために学園へいこう!なんだゾ~!」
「切り替え早すぎない???」
昼休み、食堂にて。
「う~。トレインセンセーはオレ様を眠らせる魔法を使ってるとしか思えないんだゾ。どんなに抗っても眠気に負けちまう!」
「お前、授業が始まって5分で寝ただろう。全然抗えてないじゃないか。」
「そういうデュースだって寝てたじゃん…」
「昼飯なに食べよっかな~…って、あれ?なんか今日やたら食堂が混んでるな。」
「本当だ。どうして…?」
「今日は月に一度のスペシャルデー!麓の街から大人気のベーカリーが出張営業中だよ!早い者勝ちの売り切れゴメンだ!」
「俺チョコレートクロワッサン3つ!」
「やった、今月は買えた!ここの卵サンドマジ美味いんだよな~!」
「くっそ〜!もうサンドイッチ無いのかよ〜!」
「卵サンド売り切れました!デラックスメンチカツサンド、最後の1つでーす!」
「…だってさ。どうする?」
「へー、どれも美味そうじゃん。オレも買ってこよっかな?」
「にしてもスゴい人気だな。カエデとグリムはどうする…あれ?」
いつのまにかグリムの姿が消えている。
ふと争奪戦の現場を見ると見たことのある獣の姿が。
「食い意地張ってるんだから…」
「オラオラ~!テメェらどくんだゾ!デラックスメンチカツサンドはオレ様のものだ!」
「クソ、てめぇ割り込みすんじゃねぇ!」
「新入生の分際で先輩の前に割り込むとは良い度胸だな!表出ろ!」
「あいつ、食べ物のことになると我を忘れすぎだろ!」
「ハァ…」
「あ~あ~。」
「…仕方ない、止めに行ってくる。」
「俺達も手伝うぜ。ついでに何かパン買えたら万々歳だしな。」
上級生とは言え、4人でかかると簡単に対処することができた。
「どうだ見たか、オレ様の力を!このデラックスメンチカツサンドのラストワンはオレ様のものだあ!にゃっはっは!あと焼きそばパンとクリームパンもオレ様のものなんだゾ~!」
「こらグリム、いい加減にしろ!スンマセン先輩がた!」
「あ、おじさん。オレはローストビーフとレタスの窯焼きサンド1つね。」
「じゃあ私はクリームパン2つ。」
「お前達もちゃっかり割り込んでるんじゃない!」
いち早く争奪戦から抜けると、そこに以前植物園で見た獣人の先輩が来た。
「あっちゃ~。昼飯争奪戦、完全に出遅れちゃったッスね…レオナさんに頼まれたデラックスメンチカツサンドもう売り切れてるじゃないスか。」
「にゃっはっは!勝利の味、とくと味わわせてもらうんだゾ!」
「うるさい…もうなんでも良いから静かに…」
「おっ。そこの君。すごいッスねぇ。超人気のデラックスメンチカツサンド、ゲットできたんスか。」
「あん?なんなんだゾ、オマエ。」
「あのさ、オレ、今日ど~してもそのパン買わないといけないんスけど、直前で売り切れちゃって。そこで相談なんスけどこっちのミニあんパンとそっちのデラックスメンチカツサンド、交換してくんないスか?」
「はぁ!?絶対に嫌なんだゾ!」
「割に合ってなさすぎる…」
「まあまあ、そう言わずに…はいっ、どーぞ!」
すると、あれだけ嫌がっていたグリムがデラックスメンチカツサンドを差し出した。
「あのグリムが交換をするなんて…一体どういう事だ?」
私が訝しんでいる最中に取引は完了していた。
「はい、交渉成立。シシシッ!いやー、優しいヤツが交換してくれて助かったッス!そのミニあんパンもめーっちゃ美味いッスから。小さいのが玉に瑕だけどね。ってわけで、ばいばーい!」
「ふ、ふ、ふなぁ~~~!!!オレ様のデラックスメンチカツサンド~!!!」
そういうわけでグリムは今生の別れかと間違うほどの迫力でデラックスメンチカツサンドとお別れした。
「うっうっ、今日は…ふがふが…最低の…もぐもぐ…1日なんだゾ…がつがつ…パンもろくにノドを通らねえんだゾ…」
「あっという間に3つ平らげておいてよく言うぜ。」
「全然説得力がない…」
グリムはその言葉とは裏腹に今もなおムシャムシャとパンを頬張っている。
「それにしても、さっきはどうしたんだ?そんなに文句を言うなら交換しなきゃよかっただろう。」
「ちげーんだゾ!なんか、アイツが手を差し出したらオレ様も勝手にアイツと同じ動きをしてて…それで、気付いたらパンを交換してたんだ。」
「ああ、その気がなくても思わずノッちゃった~みたいなことたまにあるよね。」
「無意識的なやつね。」
…しかし、疑問が残る。この世界にはユニーク魔法という物もある。だから、他人の体を操作するユニーク魔法なら…と思わず考えてしまう。だからと言って脅威であるというわけではない。…そもそも、この世界ではそんな命の危機になるような事など起きないだろうし。
「…ううん、うまく説明できねぇんだゾ~!もう、わけわかんねぇからやけ食いしてやる!デュース、オマエのパスタも一口よこすんだゾ!」
「僕は関係ないだろう!やめろ!」
「はいはい、私のクリームパンあげるから。」
「…そういやオレたち、今日の放課後学園長に話があるから来いって言われてるじゃん。一体なんの話だろうね?」
「…直近で言うと、前のリドル寮長の暴走の件じゃないかな。確か…オーバーブロット。」
「こないだの闇堕ちバーサーカー事件か。」
「ハッ…あの日大活躍したオレ様にツナ缶のご褒美かもしれねーんだゾ!」
「いや、ツナ缶はねーわ。」
「さらに言うと活躍したのはカエデだぞ。」
「あ、あはは…」
「学園長、失礼します。」
「失礼しまーす。」
「来ましたよー。」
「みな揃っていますね。では、早速本題に入りますが…先日のハーツラビュル寮の一件が一段落ついたので、君たちにもきちんと話をしておこうと思いまして。魔法士になるからには、ローズハートくんが陥った暴走状態については詳しく知っておく必要があります。」
「オーバーブロット、でしたっけ。」
「ええ、そうです。」
思い出されるのはリドル・ローズハートの変貌。全体的に黒く染まり、謎の化け物も出現していた。
「オレも兄貴から話を聞いた事くらいはあったけどブロットが溜まりすぎるとまさかあんな風になるなんて…マジで闇堕ちバーサーカー状態ってカンジだったね。」
「なあなあ、まずブロットってなんなんだゾ?」
「そうでした。監督生くんとグリムくんはそこから説明が必要でしたね。では教えてさしあげましょう。私、優しいので。」
「本当に優しい人は自分で優しいって言わないんだよな…」
「…ゴホン。ブロットというのは、魔法の使用に伴う廃棄物のようなものです。例えば、自動車は燃料を消費して走り同時に排気ガスを吐き出しますよね。魔法は魔力を消費して発現し、同時にブロットが吐き出される…と考えるとわかりやすいでしょうか。」
「つまり、ブロットは排気ガス、魔力はガソリン、魔法は車…って事?」
「その通りです。有史以来、現在に至るまでブロットについてはさまざまな研究が進められていますが、その存在にはいまだ謎が多い。1つだけハッキリわかっているのは非常に毒素が強く、溜めすぎると魔法士の心身を害するということだけ。大きな力にはリスクが伴う。どんなに優れた魔法士も、無尽蔵に魔法を使えるわけではないんです。」
「つまり魔法を使えば使うほど不健康になるってことなんだゾ!?」
「いいえ、そうとも限りません。ふむ、こればかりは説明するより見せたほうが話が早そうですね。ゴーストのみなさん、お仕事ですよ!」
「え?」
「やあやあ。お呼びかね、学園長。」
「な、なになに?」
「ひとつ、この若人たちに胸を貸して鍛えてやってください。」
「えぇっ?」
「よしきた。いっちょ揉んでやりますかな。」
「さあ、君たちマジカルペンを構えなさい。学園長の特別授業はまだまだ続きますよ。あ、監督生くんは手出しをしてはいけません。いいですね?」
…先に釘刺されちゃったなぁ。
「オイ学園長!ブロットの話と、ゴーストとの戦いなんの関係もなくねぇか!?」
肩で息をしているグリムが叫ぶ。
「グリムくん、首輪についた魔法石を見てごらんなさい。」
「ふなっ!?オレ様の魔法石なんか薄汚れてるんだゾ!?肉球で擦っても汚れがとれねぇ!」
「もう擦らないの…!」
「魔法石についているインクを垂らしたような黒いシミ。それこそが魔法を使ったことにより生じたブロットです。」
確かに薄汚れた黒いシミが付いている。それは、グリムの魔法石だけでなく、エースやデュースのマジカルペンに付いている魔法石も黒いシミがある。
「この黒いシミを取り除く方法は?」
「もちろんあります。充分な休息を取れば、時間経過と共にブロットは消えていく。魔法石は魔法の発現を助けてくれるだけでなくブロットが直接術者の身体に蓄積されないようにある程度肩代わりもしてくれる素敵なアイテムなのです。」
「なるほど。つまり魔法石が曇ってきたら身体を休めろ、ってことですね。」
「正解です。よく食べ、よく眠ることで大抵のブロットは解消されますから。」
「しかし、リドル先輩は休まる期間が無かった、と。」
「じゃあオレ様が大魔法士になって、どでかい魔法をバンバン使えるようになっても安心なんだゾ!いつもよく食べてよく寝てるし。」
「魔力量は人によって千差万別ですがごく一部の例外を除いて、ブロットと許容量にそれほど大きな差はありません。」
「どういうことなんだゾ?」
「つまりローズハートくんのように魔力量が多い人ほどブロット蓄積には細心の注意をはらわなければならない、ということです。」
「たくさん使えるからって考えなしに魔法をぶっ放しまくればあっという間にブロットが溜まっちゃうってことか。」
「MPはたくさんあっても使用効率は一緒ってことか…」
「まあその点、君たち程度の魔力量ならそれほど気を遣わずとも大丈夫だと思いますが。良かったですね!」
「なんか素直に喜びづらいんスけどそのセリフ!?」
「魔法の使い過ぎで魔法石が真っ黒になるとみんなこないだのリドルみたいに闇堕ちバーサーカーになっちまうのか?でっけー魔神みたいのも出てて怖かったんだゾ。」
「そうだ、それを聞きたかったんだ。アレは一体?」
「ブロットの蓄積量は魔法士自身の精神状態に大きく影響を受けます。怒り、哀しみ、恐怖、混乱…そういった負のエネルギーを抱えているとブロットが非常に溜まりやすくオーバーブロットを引き起こしやすくなります。そして暴走状態のローズハートくんの背後に現れた巨大な影。あれは負のエネルギーとブロットが融合して現れる化身だと言われていますが…実際のところ、詳しいことはわかっていません。なにせオーバーブロットについては未知数なことが多い。事例がそう多くはありませんから。」
「事例が多くてたまるかっつーの。あんなの二度とゴメンだわ。」
「ローズハートくんは幸いにもその場で正気に戻すことができましたが、もしあのままだったら…あぁーっ!考えたくない!恐ろしい!」
「うるさっ。」
「うわっ!いきなりでけぇ声出すからびびったんだゾ!」
「ゴホン。失礼、つい取り乱してしまいました。というよりカエデくん私に当たり強くありません???…さて、長々と話しましたが、魔法の使用には常に危険が伴う、ということです。みなさんゆめゆめお忘れなきように。」
「「「はーい。」」」
「というわけで、優しい学園長の特別授業はここまで!さ、みなさんさっさと教室に戻ってください。」
「学園長、大事なことをお忘れなのでは?」
「カエデくんが元の世界に帰る方法ね。もちろん探していますとも。忘れてなんかいませんよ、いやですねぇ。最近ちょっと忙しくて。」
「目が泳いでるんだゾ。」
「う、嘘じゃありませんよ。今私は10月に行われる寮対抗マジカルシフト大会の準備で大忙しなんです。この後も寮長を集めた会議がありますし…」
「マジカルシフト大会?」
「なんですかそれ?」
「…確か、カエデは異世界出身だったな。じゃ、知らなくてもおかしくないか。」
「世界的に有名なスポーツだぞ。プロリーグもあるし、世界大会もある。」
「オレ様も知らねぇんだゾ!」
「はいはい…それで、マジカルシフト…通称マジフトは7人ずつのチームに分かれて戦うスポーツ。ざっくり説明すると、1つのディスクを奪い合って相手の陣地にあるゴールに入れれば得点になる。そんで、点を多くとったほうが勝ち。
「言葉の響きがアメフトみたい。それはそうと面白そうだね。」
「アメフト?それは異世界のスポーツか?」
「ふむ。聞いたことがない名前ですし今度図書室で調べてみましょう。なにか手がかりになるかもしれないですし…」
「にしても、スポーツとか好きなんだ。」
「興味があるなら今度スポーツ系の部活見学にでも行ってみたらどうだ?」
「ま、生活が安定したらね…」
「んー、でもカエデがマジフトの試合に出るのはちょっと厳しいかもな。」
「なんでなんだゾ?」
「マジカルシフトは魔法を使ったスポーツなんだ。ディスクを運ぶのも魔法なら、守備も攻撃もすべて魔法で行う。」
「どんだけ魔法を派手に魅せられるかってのも選手の腕の見せ所だったりするんだよね。」
「そう!だからこそ、このナイトレイブンカレッジはマジカルシフト強豪校として世界に名を馳せているのです!我が校OBのプロ選手は数知れず!
それに、マジフトは運動神経だけでなく魔法の技を競うスポーツでもありますから。我が校の寮対抗マジカルシフト大会はプロリーグ関係者のみならず世界中の魔法関係者の注目が集まるのです。当日はたくさん出店も並びますし、世界各国から来賓もたくさんいらっしゃいます。手に汗握るトーナメント戦は、中継のテレビカメラを通して世界中が熱狂する、一大行事なんです。」
「テレビカメラ…!?流石名門校ということはある。」
「世界中に放映される!?じゃあじゃあ、オレ様がその大会で活躍すれば世界中がオレ様に大注目するんだゾ!?」
「もちろん!大会で活躍した選手は世界中のプロチームや一流企業から
引く手あまたの人気者になること間違いなしです。」
「グリムの場合、魔法より先にモンスターが選手してるってことで驚かれそうだな。」
「よっしゃ~!早速今日から特訓して絶対に活躍して目立ってやるんだゾ!」
「あ、でもグリムくんは出られませんよ。」
「…なぜ?」
「さっきから何度も『寮対抗』だって言ってるじゃないですか。君たちの寮は寮生が7人に満たないでしょう?ですから、出場登録ができません。」
「えええええ~っ!?そんなぁ~~~!!!」
「当日は観客席でドリンクを売る仕事やグラウンド整備の仕事など、いくらでもやることはありますよ。フィールドに立つ選手だけが主役ではありませんから。」
「やだやだ~~!!テレビに映って「きゃ~!グリムくんかっこいいー!」「おい、今のスーパープレイ見たか!?」って言われながらチヤホヤされたいんだゾ~!」
「想像力豊かだね…」
「いやに具体的な妄想だな…」
「うーん。人数が足りないのは仕方ない。来年オンボロ寮に新入生が入るかもしれないことに望みをかけて、今年の出場は諦めるしかないかもな。」
「それに私も少し魔術使えるとは言え…」
「…あ、あぁ。確かにな。」
「あまり目立つとな…」
「子分も言い返すんだゾ!メスだからって日和ってるんじゃ…ふがふが!」
「ちょっ、グリム!」
慌ててグリムの口を塞ぐも時すでに遅し。」
「………今、なんと?」
「え、えーっと…」
「子分がメスだから日和ってるんじゃねーんだゾって言ったんだぞ!」
「(終わったという顔)」
「………つ、つまり監督生くん…カエデくんはカエデさんと言う事だったと…」
「…流石に誤魔化しきれないか。まぁNRC唯一の女子生徒という事になりますね。」
その場の空気が凍る。
…あー、どうするんだこの状況…
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それでは。