カール城の外側にある小径は、城の正面からは目立たない場所にあるが、草刈りがきちんとされ、道はタイルで舗装されていた。
アバンは少し歩くペースを落とした。
「私は柄にもなく一国の王などというものをやっていますが、やはりこんな私でも迷う事があるんです。心がモヤモヤして、自分がやりたい事がわからなくなったりね。そんな時、よくここに来ます」
「もし、ダイ君なら、彼なら、何て言うかな?とここでひとり、自問自答するんですよ。すると、ダイ君と話しているような気分になって、いつの間にか気分が楽になっているんです。私の心の中の、彼の人懐っこい笑顔が迷いを洗い流してくれるんですね」
「おかしいでしょう?アバンの使徒から教えられる事は多いとはいえ、一応、私はダイ君の師匠なのに、これではいけませんよね」
3人はじっとアバンの話に耳を傾けている。
「だから、私は少なからずショックを受けましたよ。これを見た時はね」
丘のふもとにたどり着いた4人はダイの剣がある方を見上げた。
ポップが一気に駆け上がった。
息を切らしながら、頂上で見たものは──
ない──
ダイの剣が、ない。
「………!」
ポップは驚き過ぎて声が出ない。
誰かに壊されて盗まれたというような雰囲気でもなく、荒らされたという訳でもなく、ただきれいに抜けて無くなっている。
これまで何人もその剣を抜こうとした者がいるのは知っているが、どんな力自慢のものが抜こうとしてもびくともしなかったという。
あの大魔王バーンの胸に刺さったまま、最後の瞬間まで抜けることのなかったあの剣が、そう易々と抜けるものではないことは、ポップがいちばん分かっている。
その剣を抜ける者は…
「おい!!お────い!!ダイ!!居るんだろ!!?お前なんだろ!?」
「返事してくれよ!いつ帰ってきてたんだよ!!水臭えじゃねえかよ!!」
ポップは気がつくと大声で喚いていた。
崖から四方八方に向かって大声でダイを呼んだ。
が、返事はない。
「ダイ君はまだ帰ってきてはいませんよ」
後ろからアバンの声がした。
「何度もリリルーラでダイ君の気配を探ってみましたが……たどり着かず、最終的にここに戻って来てしまうのですよ」
「そんな……でも、現に剣は無くなってるじゃないですか!」
「ダイ君が帰ってきたのではなく……剣がダイ君の元に帰って行った、と考えれば辻褄が合いませんか?」
「それは……」
後からレオナとマァムがやってきた。
「これって一体どういう事!?」
マァムが走り寄り、剣が刺さっていた辺りの砂を手で払いながら叫んだ。
「なんでダイの野郎、剣なんか……!もう大魔王も居ねえっていうのによ!」
「理由はわかりませんが、剣がダイ君の意志に反応したと考えれば、今ダイ君には剣が必要なんだと思います。大魔王は居なくなりましたが、邪悪な存在はこの世から消えたわけではないですから」
「もし、そうだとして……じゃあ俺だってダイの助けになりてえよ……それって、アイツが困ってるって事だろ?」
「だって、ダイは戦いたいなんて思ってるはずねえんだ!!これまでだって仕方なく、勇者だから、自分がやらなくちゃいけないからってだけで…本当は戦うのが好きな訳じゃねえんだよ、アイツは!でもよ……どこに居るのかも分からねえんじゃ…」
座り込んでいるレオナが泣き出しそうな声で言った。
「なんで……ダイ君……戦いなんてやめちゃえば良いじゃない。もう、頑張る必要なんてないのに。地上が好き、って言ってたじゃない」
背後から声が聞こえた。
「いや、ダイがどこに居るかわかるかもしれないぞ」