声の主はロン・ベルク。
彼は言い終わると、腰を落とし剣が抜けた跡の孔に触れた。
「今回の件はチウ君からランカークスにいるロンにも伝えてもらっていました。彼はダイ君の剣を作った張本人ですからね──ロン、どういう事か説明してもらっても良いですか」
アバンが言うと、ロンはゆっくりと立ち上がりポップ達の方に向き直った。
「──ダイの剣は知っての通り、ダイの魂を通じてダイの意志に反応し、自ら考え、動く性質を持っている。という事はやはり、剣はダイが持っていると考えるのが自然だ」
「でもリリルーラではダイ君を探せなかったんでしょ?」
レオナが涙を指で拭いながら言った。
「リリルーラの使用範囲は術者の魔力に比例する。通常の使用ではルーラと同じくらいの範囲の移動しかできん」
「でも前にアバン先生がキルバーンと決闘した時、異空間からバーンパレスに戻ってきたわ──」
今度はマァムが聞いた。
「おそらく、それは異空間などでは無いはずだ。キルバーン程度の魔力では相手に幻を見せる事は出来ても、本物の異次元空間を作り出す事など出来はしまい。バーンパレスの中の何処かにそれらしい空間を演出していただけだろう」
「──あの使い魔の方がいれば、キルバーンが術を解いても私に異空間の幻覚を見せ続ける事は可能だったでしょうからね」
「──ダイの剣の宝玉は、それ自体がダイの竜の騎士の力で増幅され強い魔力を持っている。そして、それに共鳴できるような大きな魔力を持つものでなければ、持ち主を探し当てる事はできん──ダイの剣が失われた今がチャンスなのだ。ダイの魂と共鳴するような大きな魔力を持った者がリリルーラを使い、ダイと共鳴する事ができれば、理論上はダイの元へ行くことができるだろう。ダイのいる場所がどこであろうとな」
「ほ、本当かよ!じゃ……じゃあ!」
「しかし、再びこの地上に戻って来れるという保証もない。魔力を封じ込められたり、力が尽きてしまえばこの世の狭間で永遠に彷徨い続けることになるかもしれん」
一同が息を飲んだ。
「前に言ったかもしれんが──やはりダイがいる場所は地上ではない。そもそも人間が足を踏み入れることが出来る場所ですらないかもしれんのだ」
ロンベルクはそう言うと、崖の向こうに目をやった。日没が近づき、空が色付き始めている。
「それでも行くと言うのなら、協力しよう。アバンの使徒であれば、リリルーラの契約も恐らく可能だろう」
「分かった!オレが行く!」
ポップが力強く言った。
「そもそもアバンの使徒でルーラ系呪文は俺しか使えねえ。それに……前にダイが氷河の中に閉じ込められて行方不明になった時、氷の中で俺の声が聞こえたらしいんだ。その時、ダイの剣は間違いなくあいつの近くにあった。剣が共鳴したのか、紋章が反応したのかは知らねえ。ただ、俺はあいつと2人で何度も奇跡を起こして来たんだ──」
「ポップ──本当に良いんだな?」
「おう!俺はあいつと黒の核晶もろとも地上から消えるつもりだったんだ。今更どうなろうと怖くなんかねえよ」
「ポップ……」
「そんな顔すんな!心配ねえよマァム」
「アバン先生!良いですよね?」
アバンはしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「きっと、私が止めても行くのでしょう?」
無言のポップ──
「わかりました。危険だと思ったらすぐに帰ってきて下さい。もしそれが無理でも、少し時間はかかるかも知れませんが、私が必ず助けに行きます」
「はい!」
「また私はダイ君の助けにはなれないのね……」
レオナが肩を落とした。
「何を言っているんですかレオナ姫。あなたはダイ君が地上に戻るかどうかの最後の希望なんですよ。彼が地上に未練があるとすれば、それはあなたの事でしょう──自分の愛に、ダイ君との絆に自信を持って、どんと構えて待っていてください」
レオナはアバンの口から不意に愛という言葉を聞いて狼狽したが、すぐにいつもの顔に戻り、しっかりと頷いた。
「ねえ、レオナ。私達も……出来ることをやりましょう。せっかくダイとまた再会出来るかもしれないチャンスなんだし」
「そうよね。マァムの言う通りだわ。出来る限りのことをしましょう!アバン先生お得意のあれ、よね。」
「ジタバタしか出来ないなら、ジタバタしましょう、ですか?」
「そうそう!俺もジタバタしてやるぜ!地上でいちばんジタバタする男になってやるさ!」
夕陽に笑い声がこだまする。
アバンの使徒達に、ようやく笑顔が戻ってきた。