ロンベルクに魔鉱石を渡したポップは、もと来た山道を石ころを蹴飛ばしながら歩いていた。
「あとは、リリルーラの契約だよな…俺、契約できっかな…」
アバンによれば、リリルーラを契約したのは破邪の洞窟の地下20階。
今のポップのレベルであれば問題なく到達できるだろう。
ポップはミナカトールを使ってバーンパレスに乗り込もうとした時、アバンのしるしが自分だけ光らなかった事を思い出していた。
「やるって言ったのは俺だけど、今回も責任重大だな…」
ポップはぐっと両方の拳を握りしめた。
一方、カール王国──
王の間の奥の部屋からフローラの声が聞こえる。
「それじゃポップ君は契約できないかもしれないって事!?」
テーブルの紅茶のカップが揺れた。
「いえ…そんな事はないと思いますが、一抹の不安があるのです」
「誰か別の使徒が行くというのはダメなの?」
「レオナですか…彼女は確かにアバンの使徒の1人ですし、契約ができる可能性は高いでしょう。そうは言っても一国の王女です。事情を話したら間違いなく王宮全体から大反対されるでしょうね」
「それは…そうよね」
「それに、いちばん今回の役目を務めたかったのは彼女だったでしょう。でも自身の立場を省みて名乗りを挙げられなかったのだと思います。その気持ちは汲み取ってあげる必要があると思います」
「もう!私が行けたらどんなに良いか…」
「そういう問題じゃないんですよ」
アバンが慌てて制した。
「わかりました。私に考えがあります」
アバンが胸を張った。
──数時間後、ポップはカール王国の王宮にいた。
「えっ?俺が着るんですか?カールの法衣を?」
ポップは薄いワンピース姿の自分を思い浮かべ、げんなりした。
「いえ。そのまま着るのではありません。何枚も重ねてマントにするのです。この素材は軽いですが服の上からつければブレスや攻撃呪文の威力を軽減してくれますし、あらゆる属性を隠し…ゴホンゴホン。あらゆる属性の攻撃を軽減します」
「属性って?暗黒闘気とかそういうやつですか?」
「だいたいその様なものです」
「地下20階までに出てくるモンスターの種類を聞いた限りだと、そんな装備が必要だとは思えないんですけど」
「ポップ君。何事も"備えあれば憂いなし"ですよ。このアバンもあの洞窟では何度も危険な目に遭いましたからね」
「そうですか…」
「さあ!このマントを着てみてください!」
言われるがままアバン作の破邪のマントを装備したポップは鏡の前でヒラリと回ってみせた。
「おっ!アバン先生!これなかなかカッコいいじゃないですか!ちょっと動きにくいけど」
「そうでしょう!よく似合っていますよ!それとこれも持っていってくださいね」
アバンは魔法の聖水をポップに手渡した。
「道中、魔法力が足りなくなっては困りますからね」
「先生、なにもここまでしなくても」
「ポップ君」
「わかりました」
アバンの圧に押されたポップは、釈然としない思いを抱えつつ、破邪の洞窟に向かった。