「ポップさん!」
ロン・ベルクの小屋に入ると、頭に手拭いを巻いたノヴァが出迎えた。
「呪文の契約は出来ましたか!?」
「ああ!危ないところだったけどな…で、そっちの調子はどうだ?」
「お待たせしました…」
ノヴァが目をやった先には布で巻かれた細長い棒のようなものがあった。
「あと最後の仕上げが残っているだけです」
「おお!もう出来たのか…ありがとうな。ノヴァ」
見上げたノヴァの顔が充実感に満ちている。
彼は恥ずかしそうに鼻をこすり、白い歯を覗かせ爽やかに笑った。
半開きになっていたドアが開き、ロン・ベルクが奥の部屋から出てきた。
「ポップ、よく戻ってきたな。仕上げの件については俺から説明しよう…」
「それって前にダイにやってたようなやつか?」
ポップは両方の掌をロンに差し出した。
「いや、違う。剣と違い、肉体ではなく魔力を同調させる必要があるのだ」
ロン・ベルクは壁に立てかけてあるノヴァの努力の結晶を手に取り、巻きついている白い布を丁寧に外した。
現れたのは、杖だった。
今にも動き出しそうな、鱗を逆立てた暗緑色のドラゴン。
それがぐるりと赤い宝玉に巻き付いている。
長く延びた尾にあたる部分の下端はドラゴンの爪になっており、ひとまわり小さい宝玉を握っている。
「お前の相棒…そうだな。ドラゴンの杖、とでも名付けようか」
美しさと禍々しさを凛とした佇まいが中和しているような、不思議な佇まい。
細部までこだわり抜いて作った事が分かる逸品だった。
ポップは息を呑んだ。
「す…すっげえ!これで、ダイのところに行けるのか?」
「さあな」
「えっ…!?」
ロン・ベルクは咳払いをひとつして言った。
「ポップ…俺たちは全身全霊を込めてこれを作った。それを生かすも殺すも、ここから先はお前次第だ」
不意にポップの脳裏に浮かんだのは、
あの日、あの時、自分を蹴落としたダイの呟き。
あの日から自分は、
生きる事の意味をさがし続けている。
ダイに問いかけたかった。
いや、胸ぐらを掴んで問いただしたかったのかもしれない。
何故、自分の大切なものの為に生きようとすると
傷つかずにはいられないのか。
どうして、何かと引き換えにしか手に入らない幸せが存在するのか。
ポップは静かに言った。
「ああ…そうだな」
「仕上げ、さっさとやっちまおうぜ」
「無論そのつもりだ」
3人は小屋の外に出ると地面にドラゴンの杖を突き刺した。
そして数メートル離れてぐるりと杖の周りを囲んだ。
ポップは進み出ると、刺さっている杖のドラゴンの頭に掌を下に向けてかざした。
「よし、そのまま魔力を集中させるんだ」
ノヴァが固唾を飲んで見守っている。
「この儀式は武器にお前の魔力の最低値と最高値の振れ幅を教えてやるためにある。杖の持つエネルギーの波動を受け取ったら、なるべく一定のスピードでゆっくり魔力を限界まで高めろ。急に上げるなよ」
「おう…やってみる」
ポップが目を瞑り掌に魔力を集中させると、
足元から血潮が頭のてっぺんまで駆け上っていくような感覚が通り抜けた。
すると、頭の中に雲の隙間から姿を覗かせる竜のイメージが浮かんできた。
ポップはゆっくり息を吐き、魔力を徐々に高めていった。
鬱蒼と茂った森の木々はザワザワとざわめき、
空には暗雲が立ち込めた。
そして、地面が微かに揺れていた。揺れはだんだん大きくなり、頭上から雷鳴が聞こえてきた。
「もう一息だぞ!」
ロン・ベルクが叫ぶ。
ポップの顔に汗が滲む。
身体中から魔力が解き放たれるイメージを思い描きながら叫んだ。
「おおおおおおおっ!」
その時、頭上の雲から放たれた白い稲光が杖に命中した。
ポップは息を一気に吐くと、脱力し地面にへたり込んだ。
「これで完成だ」
ロン・ベルクが言った。