風が吹きぬける丘の上、集まった者達は、
緊張の面持ちで成り行きを見守っていた。
ポップは屈伸をしたり、首を回したりと体操をして身体をほぐしている。
彼は周囲に余計な心配をかけまいと、いつも通りの雰囲気を崩さない事を心掛けていた。
ヒュンケルが何かの気配を感じ取り、ポップに近づいて言った。
「ポップ、本当にもう準備は良いのか?」
ヒュンケルはエイミから事の次第を聞き、数時間前にカール王国に到着していた。
知らせを受けたとき、何故そんな大事な事をすぐ伝えなかったのかと彼は声を荒らげたという。
ヒュンケルは自分が役目を引き受けられないことを心から恥じていた。
自分は幸せになって良い人間ではない。
ダイが消えてから、彼の胸中もまた苦しかった。
今まで自分は進んで死地に赴いてきたつもりだった。命を捨てる事など全く怖くは無かった。
しかし、結果として年端も行かない少年が犠牲になる事で生き永らえた。
自分はこの拾った命をどう使えば良いのか。
どう生きれば、いや、どう死ぬかをこの5年間考え続けてきた。そして、そう思っている事を誰にも悟られたくなかった。
自分の身体が回復する事に何の意味があるのだろう。強くなる事に何の意味があるのだろう。
生きる事も死ぬ事も出来ない自分は一体何のために存在するのだろう。
エイミに対し刺々しい態度で接してしまった事は後悔している。自分の身を案じ、いつも気に掛けてくれる彼女に対して恩義を感じている。
しかし、それとこれとは別の問題なのだ。
知らせを聞いた時、自分がこの場に現れるべきか迷った。しかし、アバンのしるしを身に付け、この場で全てを見届ける事は自分の役目のような気がした。どのような結果も受け止める。それが彼によって生き永らえた者としての責任だと思うからだ。
「ああ!大丈夫だぜ!」
ポップは両手の拳をポキポキ鳴らしながら答えた。
胸元にはアバンのしるしが揺れている。
太陽は真上にある。
時刻は正午、予定の時間だ。
「よし!じゃあ行くか!」
そう言うとポップはかつてダイの剣があった石の台座を見た。
アバンが口を開いた。
「ポップ君。くれぐれも無理だけはしないで下さい。お話ししたように、いざとなれば私にリリルーラを試みて下さい」
「はい。必ずそうします」
ポップがドラゴンの杖を握り、魔力を集中させると、杖の宝玉が光り、周辺の空気の流れが変わった。台座の周りに咲く花々が揺れている。
薄い光に包まれたポップは目を閉じ、ダイの気配を探した。
(ダイ…何処にいる?)
かつて氷の中にいるダイに必死で呼びかけた時、不意に頭の中が静かになって波の音も風の音も聞こえなくなる瞬間があった。
ポップは杖を持った手と逆の手でアバンのしるしを握りしめる。
頭の中に微かにダイの輪郭のようなものが浮かんできた。目を開け、アバンのしるしを見ると、淡く光を放っている。
(…これか?)
不意に頭の中が真っ白になり、
ダイの寂しそうな後姿が見えた。
「…リリルーラ!!」
ポップが叫ぶと、風の中に消えた。
「ポップ君…お願い」
レオナがアバンのしるしを握り呟いた。