「おおおおお…!」
身体から重力が消え、どこまでも落ちていくような感覚に襲われる。
極彩色の景色がものすごい速さで入れ替わり、
ゴウゴウという耳鳴りのような音がひっきりなしに聞こえてくる。
あまりの事に頭がどうにかなりそうだ。
ポップは拳をしっかり握った。
そして、ダイの姿を捉えることに集中した。
再びダイの輪郭が見えてくると、混沌とした景色は互いに溶け合い、クリーム色に近い色になっていった。
不意に目線の先に時空の裂け目が現れる。
手を伸ばすと、ポップの体はあっという間に吸い込まれた。
意識が戻ったポップが目を開けると、そこには荒野が広がっていた。
「うまくいったのか…?」
ポップは自分の両手を見つめると、
一歩ずつ進み、大地を踏みしめる感覚を確かめた。
昼間だというのにやけに薄暗い。
空を見ると、雲なのかオーロラなのかわからない、モヤモヤとした空間が広がっていた。
様々な絵の具を出鱈目に混ぜてできたような暗い空。
目を凝らすとシャボン玉の表面のような膜が薄く覆っている。
それは口では説明できない奇妙な光景だった。
そして、空に浮いているのは、太陽というにはあまりにも弱々しい、月というにはあまりに禍々しい、白い巨大な天体。
耳を澄ませると、遠くで雷鳴や獣の唸り声も聞こえる。
「ここ…あの世じゃねえよな…?」
墨色の土についた足跡を振り返り、ポップが言った。
あてもなく荒野を歩くと、岩山に囲まれた砦が見えてきた。
かつての魔王軍の本拠地、死の大地を思い起こさせる。
まるで闇の中にうずくまる黒猫のような__
恐ろしい、と思った。
しかし、何故か足を進めるのを止められなかった。
ポップは砦に足を踏み入れると、気の赴くまま歩き回った。
ここが何の為にある場所なのかは見当もつかない。
ただ、砦としての機能はないも同然だろう。
柱は崩れ、屋根は落ち、既に遠い昔に朽ち果てているように見える。
それなのに、なぜか息苦しくなるような緊張感を感じる。
奥に足を踏み進める度にどこからか湧き出した霧が濃くなっていった。
砦の端まで行くと、そこは崖になっていた。
崖の向こうにはささくれ立った岩山が、何かを守るように無数に聳え立っている。
その中で、一際高い、まるで塔のように見える岩があった。
霧でよく見えないが、塔のてっぺんには檻のようなものが見える。
静寂を切り裂き、雷鳴が轟いた。
ポップは直感的に思った。
「俺はこいつを知っている」
なぜ、そう思ったのかは分からない。
ポップは心の奥に沸々と怒りの感情が湧いてくるのを感じた。
もうここを出よう。
そう思って、踵を返したその時、視線の端で何か人影が見えた気がした。
胸騒ぎを感じ、早足でその影を追いかける。
まさか__
「ダイ…!!」
忘れようがない、見慣れた背中。
「ポップ…!?」
振り返ったダイの顔はどこか怯えて見えた。