「本当に、本物のダイなのか…?」
ポップは突然のことに目の前の光景が信じられない様子だった。
様々な想いが頭を巡っていた。
しばしの沈黙の後、ポップは口を開いた。
「なんで生きてんなら帰ってこねえんだよ。心配したじゃねえか……もしかしたらもうニ度と会えねえんじゃないかって…」
震える息で溜め息をつくと、涙が滲んできた。
「帰ろうぜ、ダイ」
ポップは溢れる涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら跪いた。
そしてダイの胸に頭を預け、しっかりと抱きしめた。
凍りついた時間が溶けていくのを感じる。
ポップはこの瞬間をどれほど待った事だろう。
しかし、ダイは下を向いて言った。
「ポップ…どうして…どうして来たんだよ…」
ポップの表情がみるみるうちに凍りついた。
「みんなと地上で幸せに暮らしていて欲しかったのに…俺のことなんかもう忘れてさ…」
「何言ってんだ。そんな事出来るわけねえだろ!お前が居ないのに平和だなぁなんて喜べるかよ!」
ポップは反射的に叫んでいた。
「ここに来ちゃいけないんだ」
「おい!ダイ!どういう事か説明しろ!」
ダイの胸ぐらを掴もうとした時だった。
朽ちた壁の向こうから誰かが近付いてくる。
ポップは息を殺し、じっと足音のする方を睨んだ。
現れたのは女だった。
ポップよりも少し背が高く、見慣れない形の鎧を身につけている。
引き締まった薄い褐色の肌。
白く長い髪をあみだに結んでおり、首には装飾の付いた紐飾りのようなものを身につけている。
グレーがかった瞳は冷たい光を宿していた。
「…人間…?」
端正な彼女の顔にかすかに戸惑いの色が見えた。
「おい。お前誰だ。ダイに何をしやがった」
女はポップの言った事に気をとめずに言った。
「なぜ人間がここに居る?」
「お…お前に教えてやる義理なんかあるかよ…!」
ポップは驚きとまどいながら、彼女をねめつけた。
「人間がここに来る術はもう残されていない筈…そうか、封印が…順番が変わったという事か」
「お前は誰だ!」
その時、地鳴りが起きた。
それはまもなくこの奇妙な大地を揺るがす、大地震へと変わった。
「うおっ!なんだ!」
何処からともなく声が聞こえてくる。
「貴様、バーンを倒した勇者ダイの仲間だな」
ポップは言葉を失った。
「人間という生き物は本当に往生際が悪い。何故、神はこんな者達に肩入れする」
(こいつ…あの時の…!)
「ここはお前達の来るところではない。いずれこちらから出向くつもりではあったがな…」
「くそっ…!」
振動は強さを増していく。ポップは立っているのがやっとだった。
「そして、ダイは我らと志をひとつにする仲間なのだ。地上に返すわけにはいかん」
「………!!」
「立ち去るがよい」
「ひとつ教えておいてやろう。そこに居るのは私の娘だ。ダイといずれ子を持ち、その者はこの世の王となるだろう」
「ふっ…ふざけんな!!デタラメを言いやがって…」
大地が裂け、ポップの体が地割れに飲み込まれていく。
「また会おう。坊主」
ポップは目の前が真っ暗になった。
__どれだけ時間が経ったのだろう。
目を覚ましたのはある洞窟の中だった。
仰向けのまま、しばし呆然と天井を見つめるポップ__
足元にあるドラゴンの杖を手繰りよせると、
立ち上がり部屋を見回した。
先程まで自分がもたれていたのは階段だった。
中央の高くなっている部分に向かって四方から登る事ができるようになっている。
慎重に階段を登った。
覗き込むと、中央部分が正方形のプールのようになっている。
ただ、そこに張られていたものは水ではない。
先程まで自分がいた空間、あの悪夢のような時間を過ごした世界の空と同じ色をしたトロリとした何かだった。
ポップは身震いをし、嘔吐した。