マザードラゴンは滔々と語り始めた。
「皆さんが知る通り、5年前、ダイは地上を守るため、黒の核を上空に逃がす途中で爆風に巻き込まれました…しかし、すんでのところで服の中に入っていた、神の涙の欠片が光を放ち、ダイの身体を包み守ったのです」
「それを見ていた神々は、ダイをそのまま天界に連れて行くつもりでした。そして彼がもう戦わなくて良いように、彼の父や母と穏やかに暮らせるようにしようと考えたのです」
「しかし、気付いた時にはダイはそこにいませんでした。大魔王バーンを倒したダイに、利用価値があると考えた冥竜王ヴェルザーは、彼を魔界に連れて行ったのです。ヴェルザーは傷ついたダイの世話を娘や部下のモンスターにさせました。そして、ダイが意識を取り戻した時、ヴェルザーはダイに吹き込んだのです」
「魔界にはもうひとつ大きな勢力がある。それらはバーン亡き今、再びその力を拡大し始めている。もし、自分達と協力し、一緒に戦うのであれば、地上への侵略はしない、と。その代わり、地上に帰ろうとしたり、仲間とコンタクトを取ることは許されない。この要求を飲むのなら、出来るだけ平和的な解決が出来るように考える。自分はバーン等とは違い、もともと地上を破壊しようとまでは考えていないのだから、と…」
「そして、先にリリルーラで魔界に戻ってきていたキルバーンを、自分の命令に背き、アバンへの私怨だけのために黒の核を地上に向けて使おうとしたと断罪しました。そしてダイの目の前で両手両足を吹き飛ばし、地下牢に閉じ込めたのです」
「キルバーン……あの時……まさか生きていたなんて……」
マァムが驚愕の表情を浮かべたが、ポップは身じろぎひとつせず、じっと話に耳を傾けている。
「そして、ヴェルザーは今後戦うのに必要になるからと、ダイに剣を魔界に呼び寄せさせました。__実際は地上への未練を断ち切らせる為だったのですが」
「これがこの5年間で起こっていた事です」
沈黙が流れた。
皆の心の中にやり場のない怒りと悲しみが溢れていた。
マァムは途中からずっと顔を押さえ、声を殺して泣いている。
「何という卑劣…ダイはまだ年端も行かない子供なんだぞ…!!」
ヒュンケルが怒りに我を忘れそうになるのを堪えながら、絞り出すように言った。
マザードラゴンが続けた。
「魔界には__特殊なガスが大気に充満しており、基本的には人間は行く事ができません。魔族など、魔界の血を持つものや竜族などに限定されます」
「基本的には、ってどういう事ですか?」
ポップが訊いた。
「並の人間ではその環境に耐えられないからです。肉体的にも精神的にも負荷が掛かりすぎます。大きな魔力を持つ者などでしたら、ある程度は耐えられる、と言ったところでしょうか。その昔、人間が迷い込んだ例がありますが、眩暈や吐き気、精神汚染がひどく、地上に戻ってきてからもしばらく後遺症に悩まされた、という事です」
ポップは顔からさっと血の気が引くのを感じた。
「__ところで、あなたが持っているその杖……」
「あ…ああこれ…」
「この杖はまだその真価を発揮出来ていないようです。私が力を引き出してみましょう」
沈黙を貫いていたロン・ベルクの眉がピクリと動いた。
「その杖をこちらに向けてください」
ポップが恐る恐る握ったドラゴンの杖をマザードラゴンの方に向けると、赤色の宝玉が光り始めた。七色の光を放ちながら、辺りの靄を吸い込んでいく。
「何かの助けになると良いのですが…」
「ダイを…どうか…よろしくお願いします」
マザードラゴンはそう呟くと再び靄の中に消えた。