マザードラゴンが靄の中に消えると、バランは横を向いてひとつ咳払いをした。
ふっとゆっくり息を吐くと、俯き加減で言った。
「__ヴェルザーは自分が封印されるきっかけを作った竜の騎士という存在そのものに根深い恨みがあるのだ…もちろん直接の原因である私にも激しい怒りを感じているだろう。そのせいでダイにも辛い思いをさせてしまった。…実に不甲斐ない」
「お前達、どうかダイを頼む…」
あのバランが頭を下げている。
皆が驚きの表情でこの哀れな父親の姿を見つめた。
「任せてくれ。命に替えても俺たちはダイを連れ戻すつもりだぜ」
ポップが力強く言った。
「…ヴェルザーの仕業かは分からないが…ルビスによると、先日何者かによって破邪の洞窟の守護巨人が倒されてしまったそうだ。そのせいで今、地下200階の旅の扉の封印が解かれている。そこから魔界に行ける筈だ」
アバンとポップは動揺を隠しつつお互いの顔を見合わせた。
(…これは黙っておいた方が良さそうですね)
(はい…)
バランが光のベールの中に消えると、メルルは湖の方に向けて一礼した。
参道を戻る皆の顔には一様に沈んだ表情が浮かんでいた。
憔悴した様子で隣を歩いていたロン・ベルクがポップに話しかけた。
「ポップ…済まない」
「えっ…?その…魔界の事か?」
「そうだ…俺はもともと魔界の住人…人間が魔界に足を踏み入れた際の身体への影響など想像した事もなかった…お前の身に何かあってからでは遅かったのだ…俺はお前にも、お前の両親にも…もう顔向けできん…」
「いや…確かに魔界から戻った直後は色々しんどかったんだけど、ちょっと寝たらスッキリしたし、もともと何があっても構わない、って言ったのは俺だからなぁ」
「それに、あの杖で魔力を増幅できてたおかげであの程度で済んだのかも知れねえし…ロンには本当に感謝してるぜ。もちろんノヴァにもな」
「そう言って貰えると有り難いが…」
空気を変えようと、ポップはドラゴンの杖を取り出し、宝玉を見つめながら言った。
「マザードラゴンのおばちゃん、真の力を引き出す、とか言ってたけど結局何をしたんだろうな…?」
「分からんが…お前…おばちゃんって…」
ロン・ベルクが一瞬ぎょっとした顔をしたが、すぐニヤリとしてポップに言った。
「マザードラゴンをおばちゃん呼ばわりとはさすが大魔道士様だな」
「いや…だっておばちゃんだろ…?人間で言うと何歳くらいなんだろう…俺の母さんと同じくらいか…?」
ロン・ベルクはふっ、と笑った。
「ポップ…あまり周りに気を遣わなくて良いんだぞ」
「えっ…」
ポップは虚を突かれた気がして、思わず高い声が出てしまった。
「今回のことを聞いて俺だって…もちろん皆そうだろうが、ショックを受けた。でも本当の事が分かったからこそ、次に何をするべきかが分かったじゃないか?」
「ダイを何があっても絶対に取り戻す…だろう?相手がバーンだろうが、ヴェルザーだろうが、もっと手強い奴だろうとな。お前が魔界に行けようが行けまいがそんな事は関係ない。みんな同じ気持ちだ」
「辛いのは、ダイに会いたいのは、みんな一緒だ。お前ひとりで背負うんじゃない」
ポップは凍てつき、張り詰めていた自分の心にゆっくり温かい血が流れ込んでいくのを感じた。
「うん…」
「そうだ。お前、デルムリン島に行くだろう?」
「ああ。そのつもりだけど」
「ノヴァも連れてってやってくれんか。ダイの生まれ故郷を見てみたいと前から言っていた」
「構わないぜ。でも、あいつモンスターの群れを見てビビったりして!」
「大丈夫だろう。何せ『北の勇者』だからな」
ロンがニコッと笑った。