2日後──
ポップはマァムとベンガーナの城下町を歩いていた。
パプニカと海を挟んで向かいにあるベンガーナ王国。
かつてここはギルドメイン大陸いちの経済大国として隆盛を誇っていたが、5年前の度重なる魔王軍の襲撃のせいで壊滅的な被害を受けた。
しかし、国王クルテマッカⅦ世による、この5年間の国を挙げての復旧作業の甲斐もあり、この王国はかつての景観を取り戻しつつあった。
王国のシンボルであるベンガーナ百貨店も営業を再開しており、街をゆく人々の表情も心なしか明るい。
レオナ姫と待ち合わせをする事になっていた2人は、ベンガーナ城に向かって歩いていた。
「──ただベンガーナってだけで、具体的にどこの場所とか全然言わねーんだもんなー」
「でも、レオナだったらなんとなく会える気がするから不思議ね」
「やっぱり城に行ってみようぜ。王様に連絡くらいしてるかもしれないし」
こうしてポップとマァムが一緒に歩くのは、以前メルルと共に旅をした時以来だ。
だが、不思議とお互いに懐かしさは感じない。
一緒にいるのが当たり前のような、家族以上に深い絆で繋がっている感覚がある。
マァムは少し髪が伸び、以前より表情も穏やかになった気がする。
幾分女性らしい雰囲気が強くなった、という感じだろうか。
近況を報告しあいながら、ポップの心は浮き足立っていた。
「昔さ、姫さんとダイと俺でデパートに来た時の話なんだけど…… 」
ポップはデパートから沢山の荷物を抱えて出てくる女性客を横目に、隣にいるマァムに声をかけた。
「ダイの野郎、何でも買っていいって言われて、すげえカッコいい鎧を買ったはいいけど、あいつちっちぇだろ? 着てみたらでかいわ重いわであいつ全然動けねーでやんの」
「あはは。なんかダイっぽいわね」
「あのちっちぇ体でよ、あいつなりに精一杯頑張ってたんだろうな」
「なぁマァム」
「うん?」
「俺、何て言ったら良いかわかんねーんだけど…… この5年間……なんていうかさ、生きてるって感じがしなかったんだ。時が止まっちまってる……って言うか」
「──私も同じよ」
少し間を置いてマァムが口を開いた。
「母さんや村のみんなと過ごす時間は本当に穏やかで、楽しくて、子供時代がまた戻ってきたみたいですごく嬉しかった。みんな私が帰ってきた事を喜んでくれたし、私に優しくしてくれて、労ってくれて、幸せだったわ」
「──でも、だんだん自分がこうして毎日を過ごしている事に違和感を感じ始めてしまって……私だけこんなに幸せに過ごしていて良いのかな、っていつからか、心のどこかで思うようになってた」
──ポップは黙って頷きながら聞いている。
「ダイがいなかったらこの平和な暮らしはなかったのよね。もちろん、今でも必ず帰ってくるって信じているけど……」
とても長い沈黙の後ポップが口を開いた。
「ダイがいない世界なんて俺はいやだ」
「好きなものを守ったからって、みんなの太陽になったからって、それが何だってんだよ── あいつが本当に望んでた事って何だったんだよ──こんな事だったのか──違うだろ!?」
ハッと我にかえるポップ。
「──なんか……わりい。取り乱しちまった」
「──ううん、いいの。きっとみんなダイの事が好きなのよね」
そう言ってマァムは微笑むと、思いっきり伸びをした。
「最近なんか身体がなまってる気がする」
「へぇ」
少しだけ大人っぽく見えるマァムがポップには眩しく見えた。
彼女の中できっと他にも何か変化があったのだろう。
──昔と変わらないように見えるマァムの横顔をじっと見つめていると、ポップの心の中が少しだけザワザワした。