目を覚ますと、クロコダインとラーハルトのふたりは薄暗い建物の中にいた。
目に入って来たのは、ところどころ崩れかけている石造りの壁と柱。
松明の明かりが反射し、影がゆらゆらと揺れている。
一見、何かの神殿のような雰囲気だが、それにしてはあまりに小ぢんまりし過ぎている──
部屋の暗さに目が慣れてくるのを待ってから床の端まで歩くと、自分達は階段で囲まれている、天辺が平らなピラミッドの頂上にいる、ということがわかった。
つまり、地上の旅の扉からこの祭壇の上に自分達は移動したのだ。
しかし、ここが何のための場所なのかを知る手掛かりは辺りには全くない。
「ここは魔界なのか?」
「多分な」
そんなやり取りの後、祭壇の一辺から埃っぽい階段を降りると、そこは広い部屋になっていた。
見渡すと、本棚や祭祀用の道具や敷物、壺、その他得体の知れない物がそこら中に無造作に積み上げられている。
忘れ去られた町はずれの倉庫や物置、と言った雰囲気だろうか。
ふたりは、これらの不思議な調度品の中に椅子と机があるのに気付いた。
机の上には開いたままの本と一緒に陶器のランプが置かれ、蝋燭の灯りが灯っている。
近づいてみると机の周りに古びた地図や資料の切り抜き等が散らばっていた。
不意に背後から声が聞こえた。
「お前さんたち──何処から来なすったかね」
振り向くと、そこには魔族であろう小柄な老人が佇んでいた。
腕に本を抱え、ランタンを片手に掲げている。
「ああ……儂はな、ここで地上と魔界を自由に行き来する門について長いこと研究しておるのだよ」
ふたりは自分達が旅の扉を使い地上から来た事を話すと、老人は目を丸くして興奮した様子で言った。
「何と……! 扉は存在していたのか! この祭壇は地上と繋がっていると古い言い伝えにはあったが、まさか本当だったとは……」
老人は口の端に泡を作りながらひとしきり捲し立てた後、2人の顔を見て言った。
「儂の名はメディテ……私ができる事ならなんでも協力しようじゃないか」
そう言って皺くちゃの小さな手を差し出した。
「是非もっと話を聞かせてくれ」
ふたりと握手を済ませると、老人はどこからか二脚の椅子を持ってきて勧めた。
そして自分もさっきまで座っていたであろう机の前の椅子に腰掛けた。
難儀そうに身体をずらしてこちらを向くと、わくわくした様子でメディテは2人に訊いた。
「──で、お前さんらが旅の扉を通って魔界に来た目的は何かな?そう、例えば……親でも探しているのかな?」
キョトンとした顔をしているふたりに構わず、メディテは話を続けた。
「希望を胸に地上に出て行く魔族の若者の多くは、結果的に人間から虐げられて隠れるように暮らしている──」
「そうした暮らしが長いものは、いつしか自分のルーツが知りたいと思い始めるものじゃよ。魔族には自分の親の顔を知らないという者も多いからなぁ……」
ラーハルトが顔を顰め(しかめ)ているのに気付いたクロコダインが先に切り出した。
「俺達は訳あってダイという少年をここに探しに来たんだ」
「ほう──その者は魔族かな……?」
「いや、人間だ」
「人間に味方するとはなかなか珍しい魔族もいたもんじゃな」
するとラーハルトが静かに言った。
「人間も魔族も過ちを犯す事がある、という点では何も変わらない……」
「そこからどう這い上がるかが、その者の価値を決めるとオレは思うがな」
「──良い出会いがあったのじゃな……そのダイという少年に儂も会ってみたいものじゃ」
メディテがため息混じりに返した。