「ほう……なるほど……ヴェルザーか……」
「やつの砦ならここから西にあるが、あそこに誰か居るとは思えんがのう……」
「爺さん。バーンが居なくなってから魔界は変わったのか? 」
クロコダインが居住まいを正して聞いた。
「うむ……バーンやハドラーと言った連中が健在だった頃は魔界の住人達もそれなりに盛り上がっていたようじゃが、今では何も無かったかのようにすっかり落ち着いているのう」
「……地上を手に入れる、等と意気込んでいた連中というのは魔王軍と呼ばれる者達が中心で、元々魔界で生まれた我らのような市井の者は冷やかな目で見ておったよ」
「太陽がどうだの、神々がどうだの言っても仕方がないからのう。我々は皆、与えられた環境で生きるしかないんじゃ……」
「メディテ……最近、竜の騎士の噂を聞いた事はないか?ここ5年くらいの間で」
今度はラーハルトが訊いた。
「いいや……竜の騎士の話は知らんな。魔王軍に協力している、と風の噂で聞いた事はあるが、それくらいじゃな」
メディテは机の上にあった紙切れを折りたたみながら言った。
「さて……久しぶりにたくさん話ができて楽しかったわい。おまえさん達、ヴェルザーのところに行くのじゃろ?途中に村があるから、寄って行くといい。食べる物や寝る所くらいはあるはずじゃ」
「爺さん、色々教えてくれて助かった。礼を言うぞ」
ふたりは魔界の地図や薬草、毒消しなどを土産にもらい祠を出た。
外に出た2人の前に魔界の景色が飛び込んできた。
墨色に近い暗い土に半分埋まった魔物の骸骨が転がっている。
地表にはごつごつとした岩肌が露出し、朽ち果てた木の残骸があちこちで風に煽られビリビリと音を立てていた。
ラーハルトが立ち尽くして言った。
「ここが魔界……」
「お前は初めてだったか……?」
「流石のオレでも気分が滅入るような場所だな」
薄明かりの下、ふたりは西に歩を進めた。
岩山の間を吹き抜ける風がヒューヒューと不気味な音を立てている。
「俺はここで生まれてからずっと、戦う事が全てだった。それが自分の存在証明だったよ。敵対する者がいれば、叩き潰す。ただ、それだけの事だったのに、俺はいっぱしの武人を気取っていた」
「俺から戦いを取ったら何も残らない、ずっとそう思っていたが、今思えば、魔王軍としてダイ達と最初に闘った時から、何かが変わり始めていたんだろうな」
目線の先に黒々とした森が見えるが、一つひとつの木は全て枯れたような色をしており、その奥に何処までも続くかのような闇が広がっている。
「……大魔王バーンの目にはバーンパレスから見た景色がどう映ったんだろうな」
ラーハルトが呟くように言った。
その時、目の前に森の中からモンスターが飛び出してきた。
グリズリー型とピクシー型……
グリズリーはいきなりクロコダインに襲いかかり、
同時にピクシーはメラを唱えてきた。
クロコダインはグレイトアックスをひと振りしてメラをかき消すと叫んだ。
「爆音!!」
直後、イオラの爆発が魔物たちを包んだ。
爆発が収まると同時に、ラーハルトが音もなく魔物達の背後に周ると、2匹の魔物を素早く魔槍で貫いた。
ヨロヨロと立ちあがって、まだラーハルトに爪を立てようとしているグリズリーを後ろからクロコダインが一刀両断すると、ふたりは再び歩き始めた。
「魔界のモンスターとて、我らの敵ではない……」
「うむ……数さえ多くなければどうという事はないな」
「どうする……?森を抜けていくか?」
「……この地図をみる限りだと、その方が近道のようだな」
ふたりは森の奥に足を進めた。