森を抜けると、メディテに教えてもらった村がようやく見えてきた。
人口数百人程度といったところだろうか。
住民が魔族である以外は地上と何も変わらない。
宿屋や武器屋など商店なども点在し、人々は商いに精を出している。
若者の姿もちらほら見かける。
男女で連れ立って歩いているものもあり、彼らは幸せそうに見える。
「さて…まずは腹ごしらえだな。ん……その前に今日の宿か……?」
クロコダインがキョロキョロと店を物色している。
その時ラーハルトの脳裏にはメディテの言葉が浮かんでいた。
「──自分達は地上から来た、等と村で言ってはならんぞ。ただでさえ魔界において若者は貴重なのだ。地上への興味を焚きつけてしまっては、魔界の衰退に繋がりかねん。村のものに恨まれたくは無いじゃろ?──」
複雑な表情のまま口を結んでいるラーハルトにクロコダインが声を掛けた。
「おい、どうした?」
「いや……何でもない」
(──みてみて!あの人……渋くてカッコいいわ)
ラーハルトの隣を魔界の女性2人が噂をしながら通り過ぎていった。
「おっ、お前も隅におけんな。俺と一緒に嫁でも探すか?わっはっはっは」
クロコダインが肘でつつくとラーハルトは声を荒らげた。
「おい!クロコダイン!オレをからかうな!」
しかし、それも無理はなかった。
ラーハルトは今回の報告を聞いてからというもの、
まともに眠れず、腹わたが煮えくりかえる思いでここ数日を過ごしてきた。
ずっとギリギリの所で平静を保っていたのだ。
──考え得る最も卑劣な行為であの純真なディーノ様の心を傷つけ、あまつさえ気高いバラン様に頭を下げさせた……
ヴェルザー……!!必ずオレのこの手で粛清してやる……
ヴェルザーに対する強い殺意が身体から溢れ出し、このまま自分の姿形まで変わってしまうような気がした。
実は魔界に来る前、クロコダインに自分の苦しい胸の内を話している。
「お前はどう思うか?」
そう訊くと、クロコダインは落ち着いた口調で答えた。
「──お前の気持ちもわかる。もちろん俺とてヴェルザーを赦すことは絶対にないだろう。しかし俺達の本来の目的はダイを取り返す事だ。ヴェルザーを殺すことではない」
「ダイが俺たちとの絆を、過ごしてきた日々を、そう簡単に忘れる筈がない。俺はそう信じている。あいつが失った5年間をみんなで少しずつ埋めていけばいい。そうしたらダイの笑顔がいつかまた見れるに違いないさ」
おそらく、クロコダインも熟考した末に出した答えなのだろう。
言葉に重みがこもっていた。
その時は納得できたつもりだったが、自分の中の怒りの感情は容易にそれを認めなかった。
時間が経つと再びヴェルザーへのどす黒い憎悪の感情がむくむくと黒い雲のように湧き上がってくる。
ふたりは何となくギクシャクしたまま宿に入り、近くの食堂で簡素な食事を済ませた。
部屋に戻ると、久々の魔界だから、と言って酒を浴びるように飲んだクロコダインは先にいびきをかいて寝てしまった。
寝付けないラーハルトは、店を出ると裏手に積んであった木製のパレットに腰を下ろした。
右手の薬指に嵌めた戦士の指輪をじっと見つめると、その形をなぞるように指でなぞった。
ひとしきり指輪をもて遊ぶと、ラーハルトは空を仰いだ。
指輪をした握り拳を自分の目線まで持ち上げ、遠くに見える白い天体に指輪を重ねてみる。
白い偽物の太陽と、竜の騎士が出会い、そして別れる。
ラーハルトはしばし物思いに耽ると、ふうっと小さくため息をついた。