「──さあ、おもてなしをして差し上げなさい」
そう言われると、ベラは上空から滑降し、片脚でラーハルトの目の前に着地した。
気圧され、思わず後ずさる陸戦騎。
「(うっ……)」
声にならない声をあげた瞬間、その腕をベラは掴んで引き寄せた。
──彼女の瞳がラーハルトを捉える。
グレーの虹彩に長い睫毛。
端正で美しい顔立ちだが、まだ少女のような甘さが残っている。
僅かに彼女の口元が歪んでいるのがわかった。
ラーハルトは自分の心の奥底にある恐れを見透かされたような気がして、軽いパニックに陥った。
次の瞬間、体が後ろに吹き飛んだ。
衝撃波のようなもので攻撃されたらしい。
背中から地面に落ちると、体中がズキンと痛んだ。
突然の事に狼狽しているラーハルトにクロコダインが声をかけた。
「おい!しっかりしろ!」
ラーハルトは自分が、なす術もなく少女にあしらわれた事に少なからずショックを受けていた。
クロコダインが雄叫びをあげると、振り上げた斧をベラに向かって投げつけた。
巨大な斧が周囲に真空の渦を巻き起こす。
ベラはその動きを観察すると、見切ったように上空に飛んだ。
「逃げても無駄だ!真空の渦がお前を捉えるまで追って行くぞ!」
気がつくとバギクロスほどに大きくなった真空の刃がベラを飲み込んでいた。
「やったか……!?」
次の瞬間、片腕を掲げたベラが渦の中心から現れた。
翼で囲われた体の周囲に真空波を纏わせ、攻撃を無効化している。
おそらく渦と逆方向に空気の流れを作り出し、相殺したのだろう。
渦が弱まり、ベラが翼のガードを解いた。
その瞬間、待ち構えていたかのようにラーハルトが飛び出した。
周囲の景色を歪ませるほどの超音速で槍を回転させると、血走った目で叫んだ。
「ハーケンディストール!!!!」
薙ぎ払われた槍から放たれた凄まじい衝撃波は大気を切り裂き、巨大な真空の刃となってベラに襲いかかった。
ラーハルトは攻撃の手を休めなかった。
間髪を入れず、再びガードの態勢に入ろうとしたベラの死角に入ると、さらに高速の突きの応酬を繰り出した。
手応えを感じたラーハルトは、一旦距離を取る為に後ろに退いた。
土煙の中から現れたベラは片腕と肩に傷を負っていた。
暗いエメラルドグリーンの血が滴っている。
表情こそ変えていないが、肩で息をしているのが分かった。
「ムッ……効いているぞ!!」
クロコダインが歓声をあげる。
「俺たちを……あまり舐めるなよ……」
息が上がっているラーハルトも苦しそうに呟いた。
するとヴェルザーが突然口を開いた。
「──嫁入り前の娘にキズを付けるとは──お前らはいい度胸をしているな……!!」
突然凄むような口調になったヴェルザーの声が響き渡ると、ふたりは戦慄し、体を硬くした。
それを振り払うようにクロコダインが叫んだ。
「お前はバーンを倒したダイさえ手に入れれば安心と考えていたかも知れんが、俺たちとて戦士の端くれ……この5年間遊んでいた訳ではない!!」
「それに……娘を戦わせているのは何よりお前自身だろう!目論見が外れたからと言って勝手な事を言うんじゃない!!」
痛いところを突かれたヴェルザーは激昂して言った。
「汚い魔界の裏切り者風情が……オレに意見出来ると思うなよ!!ここでお前らは朽ち果てる運命なのだ……!!」
「運命か……その運命とやらに抗い続けた俺達には負け惜しみにしか聞こえんな……そのおかしな岩の中から何を言おうと響くものなど無い……」
ラーハルトが落ち着いた口調できっぱりと言った。
「ええい!!黙れ!!お前ら絶対に許さんぞ!!!!」
これまでにない、激しい地震が辺りを襲った。