自分を助けに来たがために死に瀕している。
そんなふたりの友人を前に、ダイは自分の無力を呪った。
固く握りしめられたその両手の拳には竜の紋章が浮かんでいる──
不意にダイの頭の中にバランの懐かしい声が聞こえてきた。
(ダイ──)
「父さん……?」
(ソアラ……太陽のような……)
(ただそこにいるだけで……)
「──なんだよ……」
(お前も大人になれば……きっと)
「──何を言ってるの……わからないよ……父さん……」
涙を目に溜め、うわ言のように何かを呟いているダイの様子を見て、ベラは沈鬱な表情を浮かべた。
(お父様……私にはもうこれ以上……)
(ああ……もういい……済まなかったな──)
ヴェルザーがそう言うと、ベラはその場を離れようと顔を伏せたまま振り返り歩き始めた。
──その時、遥か上空に何かが光った。
異変を感じたベラは細い顎を上に向け、光の放たれた方向を見上げた。
見えたのは放射状に光を放っている巨大な光源だった。
「太陽……?ではないようだが──」
手で庇を作りながら薄目で様子を伺っていると、いきなり目の眩むような閃光が彼女を包んだ。
「──うっ……!!」
ベラは咄嗟に両目を手で押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
──地上に出た魔界出身の者がまず悩まされるのは、太陽の反射光であるという。
太陽が存在しないが故に、魔界に長く暮らす者は強い光を苦手とするからだ。
もっとも、地上にいれば数年で目が慣れてしまうのだが、それでも敢えて森の中など薄暗い場所に居を構える魔界出身の者も多い。
視力が回復したベラが目を開けると、そこにいたのは稲妻を纏った、巨大な竜だった。
「……!!」
ベラはあまりの驚きに後ずさった。
(──ボリクス……?いや……そんな筈はない──)
ヴェルザーもこの状況に困惑していた。
これまで見た魔界のモンスターや自分の部下の中にも心当たりがない。
そもそも、ここまでの巨大な竜が魔界にいれば自分が気付かぬはずがないのだが。
竜は咆哮すると口から強烈な衝撃波を浴びせかけた。
後ろに吹き飛ばされそうになっているベラに対し、竜は立て続けに燃え盛る火炎を吐いた。
ベラは身を翻すと翼と真空波を全開にし、ダメージを受けながらもなんとか耐えてみせた。
炎が弱まり、ベラが翼のベールを慎重に解くと、ぎらぎらとした巨大な瞳がベラをじっと見つめているのが分かった。
その醸し出す殺気にベラは戦慄した。
普通のドラゴンが混乱して闇雲に攻撃しているのとは訳がちがう。
明らかに自分を殺そうとしている──
生まれてから今まで、ここまで直接的な殺意を向けられた事のないベラは激しく動揺した。
間を開けず、竜はベラにダイアモンドダストのように輝く、超低温のブレスを吹きかけた。
ベラは再び真空波を出したが間に合わず、翼と脚の一部が凍ってしまった。
逃げられないベラに対し、竜は再び燃え盛る火炎を近距離から浴びせかけた。
「ぎゃああああああああああああ」
業火に包まれたベラの悲鳴が魔界の空に響いた。
──ベラの悲鳴を聞いたクロコダインが意識を取り戻した。
左腕を押さえながらよろよろと立ち上がると、相棒の姿を探した。
「お前……!脚を……!」
クロコダインは瓦礫の上に転がっているラーハルトを見つけると、片手で脚から槍を抜いた。
「ぐあっ……!!」
ラーハルトの傷口から血が吹き出す。
「手荒な真似をしてすまんな……」
クロコダインはラーハルトの上体を起こすと、その腕を自分の肩に回して立ち上がった。
「立てそうか……?」
「すまん。俺が不甲斐ないばっかりに……それよりディーノ様は無事なのか……?」
「ああ……どうやらな……それにしてもあの竜は一体……」
ふたりは少し離れたところで繰り広げられている地獄絵図をじっと見守るより他なかった。
──竜は炎に巻かれ悶え苦しむベラに輝く息を吹きかけた。
火は一旦消えたが、ブレスそのものにより受けているダメージ量が相当に大きい。
「うう……」
意識が混濁しているベラに竜はもう一度燃え盛る火炎を浴びせると、再びベラの身体が燃え上がった。
「あああああああああああああ」
その後、竜はまるで虫けらでも弄ぶかのように、炎と氷をベラに向かって交互に吐き続けた。
(──これは……何という事だ……)
ヴェルザーは突然ベラを蹂躙し始めた見知らぬ竜の登場に恐れ慄いていた。
竜は動かなくなったベラを見届けると、ヴェルザーの方に向き直り、再び大きな咆哮をあげた。
巻き起こった衝撃波で辺りに瓦礫が飛び散った。
その眼は怒りに燃えているように見えた。