ヴェルザーは混乱した。
(──こいつ……!!オレやボリクスと同じように──)
知恵ある竜──
竜族の歴史において、その名を受ける事ができた者はごく僅かであった。
しかし、ヴェルザーは目の前にいるこの狼藉者にある種の知性を認めないわけにはいかなかった。
──もしあずかり知らぬところで、ひっそりと新たな『知恵ある竜』が現れていたとしよう。
しかし、その性質から──
覇権を握ることに無関心で居続けられる者が果たしているだろうか。
そう考えれば、この行動も理解出来なくはない。
だが、何かが引っ掛かる……
ヴェルザーは違和感の正体について必死に思考を巡らせた。
竜は口を開けると、火炎と氷のブレスを口の中で混ぜ始めた。
みるみるうちにふたつのブレスが渾然一体となり、凝縮されたエネルギー体へと形を変えていく。
口から漏れる光を見るに、それはブレスと言うより粒子砲と言った方が近いような雰囲気だった。
(──まさか……こいつ……)
ヴェルザーの脳裏に電撃が走った。
「オオオオオオオオオオオオォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
咆哮と共に放たれた砲撃は、岩山の頂に鎮座するヴェルザー像を捉えていた。
その一撃はくっきりとした断面を残しながら、像の約2/3を牢獄ごと削り取ると魔界の空の彼方に消えていった。
右半分を根こそぎ削りとられてしまったヴェルザー像は、バランスを失い、グラグラと頼りなく揺れている。
(貴様……!なんという事を……このガ──)
哀れなヴェルザーの1/3は魔界の突風に煽られると大地に向かって落下し、地面に強かに叩きつけられた。
像にヒビが入るのを見ると、竜は巨大な尾を打ち付け「それ」を粉々に叩き壊した。
その辺の瓦礫と変わらない風体となってしまったヴェルザーが、それ以上声を発する事はもうなかった。
一部始終を見ていたクロコダインとラーハルトのふたりは呆気に取られたような顔で立ち尽くしていた。
「あいつ……ヴェルザーを……」
「何が起きているのか全くもって分からんが……俺たちはどうやら勝利したらしいな……」
ラーハルトの独り言のような呟きにクロコダインが応えた。
ふたりはしばらくその場を動く事ができずにいたが、ハッと気が付いたラーハルトが脚を庇いながら歩き出そうとした。
「──早くディーノ様を……」
その時、様子を見続けていたクロコダインが竜がピクピクと鼻を動かしているのに気づいた。
「ラーハルト、待て……!」
不吉な予兆を感じとったクロコダインが相棒を制止すると、ふたりは物陰に隠れた。
竜は上空に飛び上がり静止した。
空から何かを探しているようだ。
目線の端に傷ついた身体で地面を這っているベラの姿が見えたが、この竜の関心は今や別のところにあるらしい──
竜はしばらく辺りを見回していたが、ふたりがいる場所を捉えると、ものすごいスピードで近づいて来た。