勇者ダイ帰還の知らせは瞬く間に全世界へと広がった。
カールからロモス、テランからベンガーナ、リンガイアからオーザム、そしてパプニカへと──
各国で勇者の帰還を祝う式典が執り行われ、大規模な恩赦が実施された。
商魂逞しいベンガーナ王国のデパートでは、大規模な『勇者の帰還セール』が開催され、今後は街頭パレード等も企画されているという。
また、モルホン一座による演目『勇者ダイ─その愛と苦闘の日々─』が大人気を博しているらしい。
ここカール王宮でも、連日盛大な宴が開かれていたが、ダイ本人が出席する席はアバンの配慮により身内中心の小規模なものだけに留められていた。
この日の主賓はパプニカから招かれた三賢者とバダック、そして──あれからずっと部屋に篭りきりの──レオナであった。
王の間に近い中程度の広さのホールにて、ホームパーティのようなカジュアルな雰囲気の中、ブッフェ形式での宴席が設けられていた。
カチャカチャと食器が触れ合う音や、あちこちから聞こえる笑い声で、会場は賑やかな雰囲気に包まれている。
「フローラ殿、お招き頂きありがとうございます」
蝶ネクタイ姿のバダックがうやうやしくお辞儀をした。
「バダックさんお元気そうで──こちらこそ遠いところをお越し頂きありがとうございます。お会いできて嬉しいわ──」
「こうして皆が集まって楽しくやれるのもダイ君のお陰ですな」
「ええ。彼にはどんなに感謝をしてもしきれないわ──」
「──ところで、うちの姫様ですが……」
バダックが眉を八の字にしながら小声で囁くと、フローラは気の毒そうな顔で頷いた。
「……やはりショックが大きいようで、まだ……さすがに今日の席にはお顔をお見せになるとは思いますが──」
「公務がありますからなぁ……さすがにこのままですと──」
レオナはポップからダイについての第一報がもたらされてから、ずっとここカール王国での自室に引き篭もっていた。
その間、食事は侍女が毎食運んでいたのだが、手がつけられていないことも多かったようだ。
その後の一連の出来事については逐一フローラを通じて伝えられていたが、レオナはずっと沈んだ様子だった。
ダイが戻ってきた事を伝えた際も「そう──」と言ったきり黙ってしまったらしい。
しかし、ダイが戻ってきてから7日目の今日、自国のパプニカから家臣達が訪れ、カール王国内からもパプニカと縁深い者が招かれているこの席で、王女本人が姿を見せないという事は国交上の問題からも考えられない事であった。
「そうですね──アポロさんもだいぶお疲れのようでしたし……」
レオナ不在の間、王女は現在体調を崩している、と要人達に説明し、アポロが代わりに公務を執行していた。
本来の役目である法案の審議に加え、国際会議への出席や国内・国外への視察などが重なり、彼の疲労はピークに達していた。
今日のパーティもあと1時間後には退席し、帰国する予定である。
ふたりがグラスを持ったまま話を続けていると、不意にホールがざわついた。
どうやらアバンに連れられダイが現れたようだ。
「おっ!勇者ダイのお出ましだぞ!」
フローラとバダックは人集りができている方向を向いたが、人混みに阻まれダイの姿を見る事はできなかった。
皆が拍手しダイの名を口々に叫んだ──
涙する者もいれば、中には好奇の眼差しで見つめるものもいる。
「おおー!ダイ!似合うじゃねえかよ!」
ちゃっかりパーティーに参加していたポップが正装したダイを突っついている。
「カッコいいわよー!」
大きく背中の開いたドレスに身を包んでいるマァムも声援を送った。
ダイはもじもじし、恥ずかしそうに下を向いている。
「お前もなんか飲むだろ?」
ポップが葡萄ジュースの入ったグラスを手渡すと、ダイはそれをグッと飲み干した。
「おっ!いい飲みっぷりだ!俺と勝負するか?」
クロコダインが言うと、ドッと笑いが起きた。
ダイもつられて一緒に笑った。
アバンは始終にこやかな表情だったが、時折真剣な顔でダイの表情や様子を観察していた。
ここでは気心知れた仲間が殆どとは言え、約5年も魔界という特殊な状況下にいたのだ。
それもヴェルザーに──洗脳とまではいかないかも知れないが──地上とのコンタクトを禁じられ、圧力をかけられていたこともある。
大きな環境の変化を受け入れるのにはそれなりの時間が必要だろう。
そのため、地上に戻ってからダイはアバンの計らいにより、毎日1〜2時間ほど専門家のカウンセリングを受けていた。
ダイを以前から知るものは皆、そんなダイの状況を痛いほどよくわかっている。
しかし──だからと言って、腫れ物扱いするのはやめよう、と帰還後直ぐに持たれた話し合いで満場一致で決まったのだ。
皆、どんな困難もダイと一緒に考え、乗り越えて行く覚悟が出来ているのだから──