ラーハルトがダイに料理の説明をしていると、不意にヒュンケルが割り込んできた。
「ダイ、美味いぞ。食べてみろ」
褐色のオニオンソースがかかったローストビーフをヒュンケルが差し出すと、ラーハルトは不服そうに言い返した。
「ダイ様は島育ちだ。どちらかと言えば魚介の方が馴染みがある──」
睨み合うふたりを前にダイが困った顔をして言った。
「俺……どっちも好きだよ……」
「おいお前ら。向こうでスシという珍しい料理を作っているらしいぞ。見に行ってこい」
後ろから来たロン・ベルクがふたりに言うと、長兄と義兄弟はふん、と言う顔で人集りができているカウンターに別々に歩いて行った。
「──ダイ君──」
ダイがヒュンケルに渡されたローストビーフを頬張っていると、物陰から呼ぶ声が聞こえた。
ダイが振り返ると、レオナが手招きをしている。
(姫様!)
それを見たアポロが近づこうとすると、マリンがその腕を掴み、制止した。
目の下に深いクマができているアポロがえっ?と言う顔で振り返った。
マリンは厳しい顔で首を左右に振っている。
レオナはダイを連れてホールの奥から廊下に出ると、ダイを自室に連れて行った。
部屋に入りドアを閉めると、レオナはドレッサーの椅子に座り、鏡の方を向いて俯いた。
「ダイ君もそこに座って」
レオナは部屋の真ん中にある籐で作られている椅子にダイを座らせた。
しばし沈黙が流れた。
「レオ──」
ダイがレオナの背中に向かって口を開きかけると、
彼女が先に言った。
「遅くなっちゃったけど、ダイ君──おかえりなさい」
「うん。ただいま──」
「もう、ほんと──5年も居ないとかやめてよね。わたし、もう会えないと思っちゃったんだから」
「ごめん──そんなに時間が経ってたなんて、分からなくてさ」
鏡の方を向いたまま、少しおどけた声でレオナが言った。
「もう!でもいいわ。ダイ君だから許してあげる──でも、ひとつだけ約束して欲しいの。大事なことよ」
「──もう黙ってどこかに行かないで」
レオナが少しだけ涙声になっている事にダイは気付いた。
「ひとこと──たったひとこと、何か言ってくれさえしたら、きっと──わたし、おばあちゃんになったって待ってられるから」
「うん──本当にごめん……約束する」
「絶対だからね──ねえ、ダイ君?これからも、わたしの "友だち" でいてくれる?」
「もちろん。レオナは俺の大事な "友だち" だよ!」
「わたし──邪魔じゃないわよね!?」
「えっ!?そんなわけ無いだろ!」
「そ、そうよね!変なこと聞いてごめんね」
「ううん」
レオナはくるりと振り返ると、クローゼットの方に歩きつつ、首の後ろのネックレスの留め具を外しながら言った。
「ねえ、私、ドレスに着替えなきゃ──王女様にならないといけないからさぁ。……まぁダイ君が居ても良いんだけどね──」
「いや……!俺出るよ……」
顔を赤くしたダイが慌てて言った。
後ろでドアを閉める音が聞こえると、レオナは小声で溜め息混じりに言った。
「これはまだだいぶ時間がかかりそうね──」
レオナは黄色いドレスに着替えると、背筋を伸ばしホールに向かって歩き出した。