山道を30分ほど歩き、マァム達は「つやつやの湯温泉郷」にたどり着いた。
入り口のやたらと派手派手しいゲートをくぐると、
そこから道は緩やかな下り坂になっており、両側は土産物屋や飲食店、占いの店等がびっしりと軒を連ねている。
少し道を入ると、そこかしこで温泉の蒸気がもくもくと上がり、老若男女行き交う人々はみな一様に楽しそうだ。
また、遠くを見れば、山の麓の温泉らしく彼方に見えるロモスの山々の景観も楽しむことができた。
まだ麓に残る紅葉と山頂付近の冠雪のコントラストが実に美しい。
温泉に浸かりながら眺める夕暮れの景色もきっと格別であろう。
「やっぱりいい雰囲気ね。これぞ温泉街!って感じ」
とマァムが顔を綻ばせると、
「本当ですね!まさかこんな所にこんなに楽しい場所があったなんて」
と、メルルも目をキラキラさせる。
皆で通りを歩いていると、ポップの隣を若い女性二人組が通り過ぎていった。
温泉帰りなのか、少し濡れた髪と上気した肌が妙に色っぽい。
ひとしきり目で追っていたポップが肘でダイをつっつくと、耳元で囁いた。
(おい、ダイ──?おれたちもしかして凄えとこに来ちまったんじゃねーか?)
鼻の下を伸ばして浮かれるポップの真意を知ってか知らずか、ダイは目を丸くしキョロキョロしながら逆にポップに訊いた。
「ポップ!湯気が立ってるこれ、みんな温泉なの?」
「──そうだろうな。こんなにあったら1日じゃまわりきれねえよな」
「おれ、温泉って入るの初めてなんだ」
「へえ。デルムリン島にはなかったのか?」
「うん。ずっとじいちゃんが沸かしてくれる風呂だったよ。温泉も湧いてたみたいだけど、温度が高すぎてとても入れなかったんだ」
「じゃあ、温泉初体験ってやつか!そりゃ良かったな」
ポップはダイを連れてきて良かった……と心の中でガッツポーズをした。
「それにしてもこんなに温泉がいっぱいあると……」
「どこに入ろうか迷っちゃいますよね」
マァムとメルルが頭を悩ませていると、ポップが元気よく言った。
「おっ!マァム!ここなんかいいんじゃねえか!?」
マァムはポップが指差した看板を見た。
「つやつや源泉掛け流し露天風呂 効能: 乾燥、切り傷、やけど、冷え性(男女混浴)」
と大きく手描き文字で書いてある。
「えっ?どれどれ……えーっと……源泉掛け流し」
( …… こん、よく……?)
ポップの邪悪な思念を感じ取ったマァムの表情がどんどん険しくなっていくのを見て、メルルはソワソワしている。
(ど……どうしましょう……)
「うん、ここなら間違いねえな……」
マァムは腕を組んで得意げにふん、と鼻を鳴らしているポップを睨みつけ問いただすように言った。
「──ねえ。ポップ?どうして──ここが良いと思ったのかしら」
「えっ──(やべえ気付かれたか……!?)そ、そうだな……効能も申しぶんねえし……」
「そもそも、つやつやの湯って基本的に源泉は1種類だけよね。効能ってそんなに変わらないんじゃないかしら……!」
耐えられなくなったメルルが慌てて間に割り込んだ
「あっ……あの!入る温泉はゆっくり決めれば良いじゃないですか?せっかくだからちょっとお店を見てまわりません?私達ずっと歩いてきたからお腹も空いてますよね……?」
「それもそうね。先にグルメスポット巡りでもしましょうか」
(チッ──)
「お……温泉まんじゅう、ヤマメの塩焼き、温泉たまご、ロモス名物地獄蒸しプリン、つやつや温泉うどん……私……迷っちゃうな〜!」
一生懸命はしゃぐメルルと、店先で蒸しているまんじゅうに釘付けになっているダイを尻目に、ポップは小さく小さく舌打ちをした──