ここは温泉街。
ある路地裏の片隅で──
薄く漏れ聞こえる外の喧騒から逃れるように
ポップは片手で小さな窓にかかっていたカーテンを閉めると、隣に座るマァムの細い肩に手を回した。
「……何……?」
気がなさそうに訊くマァムの眼をポップは覗き込んだ。
彼女は目を逸らすと、うざったそうに首を傾けた。
部屋の角では薪ストーブの炎がチラチラと揺れ、うっすらと心地の良い音楽が流れている。
「何って……お前もその気があるから此処に来たんだろ」
「はぁ……?何その言い方……」
ポップはふっ、と笑うとマァムの耳元で囁いた。
「これ見てみろよ」
──ポップが見せた「それ」は実に立派だった。
「それが……何なの……」
マァムが一瞥した時、微かにごくりと喉を鳴らすのをポップは見逃さなかった。
「──おれは、お前に味わって欲しいんだよ」
「なんで……」
不意を突かれ、思わず下を向いてしまったマァムの手を掴むとポップは優しく「それ」を手に握らせた。
マァムが黙っていると、ポップは「それ」をマァムの口元に持っていき、顔を見つめながら悪戯っぽい口調で囁いた。
「──おれ、知ってんだぜ。マァムが『これ』を好きだってこと──」
「えっ……」と言いかけたマァムの口にポップは「それ」を滑り込ませた。
(んっ……!)
「ちょっ……!と!」
マァムは手で振り払うと、責めるような口調で言った。
「もう……!なんでいきなりそういう事するわけ?」
少しだけ涙目になっている。
「こんなに大きいの……怪我したらどうするの……?」
「わりいわりい!でも……懐かしいだろ……お前の好きな……」
言葉とは裏腹にポップは悪びれる様子もなく言った。
「そうだ……コレをかけるともっと『美味く』なるぜ」
パシャパシャと透明の液体を振りかけると「それ」はてらてらと艶かしい光沢を放った。
それを見たマァムは今度ははっきりとごくり、と唾を飲み込んだのがわかった。
「マァムは正直だな……さっきはおれが悪かった。今度は自分で味わってみろよ」
「……分かったわよ」
マァムは髪をかきあげると「それ」を手に取ってまずじっくりと眺めた。
彼女の白いうなじが少しだけ紅潮しているのが分かる。
彼女は満足そうな表情を浮かべると、マァムはゆっくり口に「それ」を含んだ。
奥までゆっくりねぶりとるように「それ」を動かすと、桜色の唇が(ぱっ)と一瞬開いた。
艶かしく息を吐くと彼女は恍惚の表情を浮かべた。
その様子を満足そうに眺めるポップ。
「今すげえいい顔してたぜ……マァム」
「もう、意地悪……!」
少し汗ばんでいるマァムを見て、ポップが言った。
「上、脱いだ方がいいんじゃねえか」
「余計なお世話」
「ところで……」
「あと2本あるんだけど……」
マァムがポップの手元を見ると、そこには立派なヤマメの塩焼き串が2本握られていた。
「お前……もう一本食わねえ?」
「はぁ?いらないわよ!」
「うまそうだったから調子に乗って買いすぎちまった……おれ、2本食ったところでなんか飽きちまって……」
「そんなの知らないわよ!自分で処理すれば?私、まだ他にも色々食べるんだから」
そう言ってマァムは炉端焼きの店を出ていってしまった。
取り残されたポップは店内でひとり、3本目を黙々と咀嚼している。
「──あいつ、焼き魚大好物だからいけると思ったんだけどな……しょっぱくて美味いけど──さすがにこりゃ飽きるぜ……」
スダチの汁をかけたヤマメの塩焼きがつやつやと艶やかに輝いていた──