ノヴァはダイに連れられ島の奥に向かって歩いていた。
ダイを先頭にその後ろを大名行列のように皆でぞろぞろとついて行く形である。
モンスター達に混じって行列の前方を歩いていたノヴァは、悪戯そうな若いマッドオックスに後ろから鼻先で軽く突かれると、ビクッと身体を硬くした。
(──しかし──ダイさんはこれだけのモンスターをどうやって飼い慣らしたと言うんだろう……)
ノヴァが顰めっ面をして歩いているのを見て、ダイは後ろ歩きをしながらあっけらかんと言った。
「ねえ!ノヴァ、びっくした?」
「──そりゃあ、もう──」
ノヴァは汗を拭いながら目を丸くして答えた。
「でも、前に教えただろ?おれの故郷はモンスターだらけだって」
「でも、ここまでとは…」
ダイはニコニコしながらノヴァの言葉の続きを待っている。
「普通──ほら、檻に入っているとか──牧場みたいに柵に入ってるとか、こう──あるでしょう?」
「友だちをなんで檻に入れるのさ?」
ダイが不思議そうに尋ねると、ノヴァは答えられずに黙ってしまった。
(確かに──)
ノヴァは妙に納得してしまい、何度も小さく頷いた。
その時、頭の後ろで手を組んだまま後ろ歩きをしていたダイが躓きそうになり、後ろにそっくり返った。
「危ない!」
ノヴァが慌てて駆け寄ろうとすると、横からピンク色の棒のようなものが伸びてきた。
隣にいたフロッガーが舌を伸ばして倒れそうになったダイの体を受け止めた。
「ありがとう!頭を打っちゃうところだったよ」
他のモンスター達もその一連の行動を当たり前のように受け入れている様子である。
(──もう、考えるのはよそう──)
ノヴァは溜め息をついて少し肩を落とすと、何か吹っ切れたように黙ってダイの後ろを着いて行った。
島の中央に向かってしばらく歩くと、山を切り拓いた岩肌をくりぬいた洞穴が見えてきた。
近くには焚き火の跡もあり、洞窟の入り口には真新しい薪木が積み上げられている。
ノヴァが後ろを振り返ると、モンスター達が洞窟から少し離れた手前の茂みあたりで待機しているのが見えた。
息を殺して──と言うのだろうか。
その場に駐屯したまま、何かを見守るようにじっとこちらの様子を伺っている。
不思議に思いながらダイの背中を追っていると、洞穴の中から年老いた「きめんどうし」が現れた。
入り口にある薪を取りに来たようで、その老モンスターは腰を曲げて億劫そうに紐で括ってある一塊を持ち上げた。
続けて余ったもう片方の手でやっとのことで薪を持ち上げると、何かブツブツ言いながらそのまま洞穴の中に入って行こうとしている。
その時、不意に前にいたダイが大声を張り上げた。
「──じいちゃん!!」
呼び止められたその老モンスターは一瞬止まると、険しい顔をして振り向いた。
「──じいちゃん!!じいちゃん!!」
ダイがその顔を見てゆっくりと近づいて行った。
近づいてくるダイの姿を見て、彼は呆気に取られたような顔をしたかと思うと、持っていた薪を地面に落としてしまった。
紐が解け、ガラガラと薪が溢れ落ちる音がした。
「──ダイ……」
「じいちゃん!!!じいちゃん!!!おれ……」
ダイが全速力で走って行くと、彼は薪のことなど少しも気にとめずに、ゆっくりとダイに向かって歩を進めた。
「帰ってきたよ!!じいちゃん!!!じいちゃん!!!」
走るダイの目から涙が溢れて、地面にこぼれ落ちる。
「おお……まさかこんな事が──」
呟くと同時に、ダイはブラスに飛びつくように全力で抱きついた。
「じいちゃん!!」
「──おおいかん……わしは……まぼろしを見ているようじゃ……」
「まぼろしじゃないよ──おれ……本当に帰ってきたんだ──」
ダイは顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら言った。
「──本当に、ほんとうにダイなんだな?」
ブラスが大声で聞き返した。
「そうだよ!おれだよ!ダイだよ!!」
ダイの目から大粒の涙がいくつも溢れた。
「ああ──お前が帰ってきた、という話は聞いていたが実際にこの目で見るまでは信じられなんだ──」
「全く……お前はどこに行っておったんじゃ──」
ブラスの目にも涙が溜まっている。
「じいちゃん……おれ──大魔王を倒したんだよ──」
「おお。知っとるわい。まさかお前がそんな大した事を成し遂げるとはな……」
目の前の光景に思わずもらい泣きするノヴァ。
ふと後ろを振り返ると、離れたところにいるモンスター達も泣きじゃくっている。
一つ眼から涙を流しながら鼻をかんでいるギガンテス、ぱちくりした目から涙が止まらないスライム、抱き合って嬉し泣きするマタンゴたち──
「ノヴァもおいでよ」
ダイが手招きした。
「じいちゃん。ノヴァだよ。おれたちと一緒に戦ってくれた仲間なんだ。北の勇者って呼ばれてて──」
「いや、そ……それはやめてください。ボクは……」
すると、ダイは力を込めて言った。
「なんでそんな事言うんだよ。もしノヴァがいなかったら、きっとおれ──ここにこうして居られなかったはずだよ」
「──ダイさん……」
ノヴァの胸がじん、と熱くなった。
「ノヴァも家に入ってよ──まあ狭くてむさ苦しい所だけど」
「狭くてむさ苦しいは余計じゃ!」
ブラスが口を尖らせると、ノヴァはこの島についてから初めて大声で笑った。