夜も更けて、デルムリン島が星空に包まれた頃──
ダイ達は皆で粗末なテーブルを囲み、ダイが語る冒険譚に聞き入っていた。
「──それでね、おれたちもう駄目かと思ったんだけど、なんと!突然どこからか死んじゃったはずのアバン先生が現れたんだ。それで、すごい呪文であっという間に火を消しちゃったんだよ──」
熱弁を振るうダイの話をブラスは真剣に聞いている。
うんうんと激しく頷きながら、時には感心したように、時には唖然とした様子であんぐり口を開けて──
身振り手振りを入れて熱っぽく語るダイの様子をノヴァはニコニコしながら見ていた。
中にはもちろんノヴァの知らない話もある訳で、思わず身を乗り出してしまう。
そうしているうちに、ふとノヴァの頭の中である疑問が浮かんだ。
ただ、それを今この場で聞くことは躊躇われるような気がした。
しかし「それ」は非常に重要な事のように思われる。
ノヴァは次のチャンスを待つ事にした。
同じ部屋でダイとノヴァは寝ることになり、ランプの温かい光の中、2人はそれぞれブラスが用意してくれた自分の寝床に潜った。
話し疲れたダイが今にも寝息を立ててしまいそうなのを見て、ノヴァは立ち上がるとふっとランプに息を吹きかけた。
部屋が優しい闇に包まれ、丸くくり抜いてある小さい窓から月明かりが一筋、部屋の壁を照らしている。
それを見ながら、おもむろにノヴァは壁の方を向いているダイに話しかけた。
「ダイさん、ボク──ここに来て良かったなって思います」
ダイは背中を向けたまま答えた。
「そう?気に入ってくれた?」
「なんか今日1日、びっくりする事ばっかりだったですけど、すごく大事な事を教わった気がして──」
「……ノヴァは大袈裟だなあ」
「あと……」
「ん?」
「──実はさっきダイさんが話してるのを聞いてて思ったことがあるんですけど──」
「えっ?おれなんか変なこと言ったかな」
「あの──すごく意地の悪い質問かもしれません……答えたくなければ答えなくても構わないんですが……」
「なんだよ、遠慮しちゃって」
「──ダイさんはここで子供の頃から色々なモンスターを友だちだと思って暮らしてきた訳ですよね」
「そうだよ」
「──そんなダイさんは魔王軍のモンスターと戦っていた時、どんな気持ちだったんだろう、って思ってしまって」
ダイの返事はなかった。
ノヴァはダイにそれを訊いてしまったことを後悔した。
そして頭の中になぜか、ロン・ベルクの険しい顔が浮かんだ。
あり得ないことだが──
もし彼のいる前でダイにこの質問をしたら、
「お前には人間としての心がないのか!」
などと一喝しているだろうな、などと思った。
しかし、しばらくして
「う〜〜〜ん」
という唸り声が聞こえてきた。
そして、やおらダイは言葉を選ぶように話し始めた。
「おれは、すごくちっちゃい頃から勇者に憧れてたんだ。──だから、勇者っていうのはモンスターと戦うもんだってのは分かってたつもりだったんだよ。でも、そういうモンスターって、おれにとっては何故かデルムリン島のみんなとは結びつかなかったんだ。──変な話だけど」
「でも、ハドラーが復活した時、その影響でデルムリン島のみんなが暴れ出した事があって──おれがアバン先生と会ったばかりの頃にね。あのじいちゃんでさえおれを襲おうとしたんだぜ」
「えっ──ブラスさんが!?」
「うん。でもアバン先生やポップの呪文のおかげでじいちゃんやデルムリン島のみんなはもとの優しいモンスターに戻れたんだ。だから──モンスターを倒す事について心が痛まないかっていえばそんな事はないけど──結局、おれにとっては魔王軍のモンスターはあくまでデルムリン島のみんなとは別物、って感じなのかな。あんまりうまく言えないんだけどさ──」
「なるほど」
ノヴァが納得すると、ダイはそのまま話を続けた。
「──おれ、島にパプニカ王国の人達が来て、レオナに会うまでは人間の友達なんか誰もいなかったんだ」
「冒険をする中で人間の友達がいっぱいできて、おれ──本当にすっごく嬉しかったんだ。──でも、いざ自分が普通の人間とは違うんだって分かった時は急に悲しくなっちゃってさ。変だろ?あれだけデルムリン島でモンスターと一緒に暮らしてた時は自分だけ違ってても気にならなかったのに」
「いや──そんなこと……」
ノヴァは少し困惑した様子で答えた。
「だから、バーンと戦って竜魔人になった時、本当に悲しくて──いよいよみんなとお別れしなくちゃいけないって思っちゃって」
少しだけダイの声が震えている。
「でも、おれ──この島を出て、みんなと仲良くなれた事、少しも後悔してないよ。ポップが言ったように、おれはおれなんだ、って今では思えるから」
ノヴァには何と答えていいのかわからなかった。
自分が何気なく訊いた事がこんなにダイの気持ちを掻き乱す事になるとは予想もしていなかったから──
「──ダイさんの事が好きなら、ダイさんが人間だろうと人間じゃなかろうと気にしないですよ。デルムリン島のみんながダイさんを受け入れたのと同じじゃないですか」
思わず口をついて出てしまった言葉だったが、この言い方が良いのかどうかノヴァは不安になった。
「確かにそうだね!ノヴァもじいちゃんと普通に喋ってたもんね──!」
「──えっと……そういうことでは──」
ダイが明るく言うのでノヴァはいよいよ焦ってしまい、しどろもどろになってしまった。
「──とにかく、ボクはダイさんに出会えて良かったって思ってます」
「──ありがとう。ノヴァ」
窓の外が少し明るくなり始めている。
遠くで鳥の鳴く声がした──