カール王国──
その大会議室で、ギルドメイン大陸の各国代表が一堂に会しての定例会議が開かれていた。
参加国はカール、テラン、ベンガーナ、リンガイアである。
ダイの帰還後初の開催であり、各国ともに勇者帰還のお祭りムードを引きずっているのか、会議は全体的に楽観的なムードで進行していた。
そのため、ほとんどは討論というよりは勇者帰還に絡めた各国の商業施策における経済効果の報告などが多く、景気がいい話が続いていた。
しかし、ひとつだけ気になる報告があった。
カール王国東部: 破邪の洞窟付近
リンガイア王国南東: ギュータ地方
ベンガーナ王国南端: アルゴ岬
これらの地域で断続的な地震が観測されている事である。
ロモス王国南の海域のデルムリン島付近で、比較的大きな地震が観測されたというニュースが入ってきている事もあり、この報告は僅かであるが各国にとって緊張が走る内容となった。
しかし、デルムリン島に活火山がある事はよく知られた事実であり、地震についてもそれ自体は特に珍しい事ではない。
その為、今後は監視を強化すると共に、何か異変が起きた場合は積極的に情報共有していこう、という方針でまとまった。
会議も終わりかけていたその時──
ひとりの兵士が血相を変えてやって来た。
「アバン王──!」
「どうしましたか?」
兵士はアバンに近づくと耳打ちした。
「王国郊外で行き倒れになっていた女性が見つかりまして──現在、王国で保護しているのですが、その者が言う事がどうも──」
「ふむふむ……」
「自分は魔界から来た──などと言っている様でして──」
「何と……!?」
アバンの顔色が変わった。
「また、何故かは分かりませんが──畏れ多くもダイ様の名をうわ言のように呟いておりました──」
この情報は瞬く間に事情を知る関係者に伝わった。そしてダイ、ポップ、クロコダイン、レオナが王宮に集められた。
レオナは本来は召集予定のメンバーという訳では無かったが、本人の強い希望により来たとの事だ。
アバンから彼女が発見された経緯や、現在の状況などを簡単に説明された後、ダイたちは王宮のはずれにある──本来は伝染病患者などを隔離する為に作られた──医療施設に向かった。
傷の手当てを受けた後、そちらに移されたということらしい。
「入りますよ」
アバンはドアをノックすると、静かに病室のドアを開けた。ベッドに寝かされていた少女は──少し髪が乱れて顔が隠れてはいるが、紛れもなくヴェルザーの娘のベラであった。
顔や腕に巻いた包帯が痛々しく見える。
「ベラ──!」
ダイが声をかける。
しかし、薬が効いているのか彼女は寝息を立てたまま呼びかけには応じない。
ポップとクロコダインの2人はあからさまに顔を顰めている──
レオナはこの眠っている少女の顔をまじまじと見つめた。
(──この人がダイ君と5年間……)
レオナはベッドに寝ているこの年端もいかない少女の長いまつ毛を見て、何故か自分が小さい頃に王宮を抜け出してよく遊んでいた、ある少女のことを思い出していた。
その頃、同年代の子供や大人でさえも皆、王女である自分に対しては一線を引いたようにうやうやしく接していた。
しかし、相手が王女だろうと構わず、ずけずけとはっきりものを言うその少女は自分にとって、とても新鮮で──
「レオナ!そんなんじゃ男の子にもてないわよ!もっと自分は女の子なんだ、って事をアピールしなきゃ!」
わんぱくだった自分にはその子の言っていることはよく分からなかったのだが、なんだか面白くて、わざと目の前で変な事を言ったりやったりして見せていたような気がする。
あの頃から自分はどのくらい変わったのだろう。
レオナは心配そうに少女を見つめるダイの横顔を見て、なぜか少しだけ心がざわついた。