ベラに面会してから2時間──
相変わらず彼女は眠り続けている。
「──ところで皆さん、お腹空きませんか?」
アバンは朝から何も食べていない4人を気遣って言った。
「そういえば……腹減ったなぁ」
部屋の隅の椅子に座っていたポップは壁に頭をもたれながら呟いた。
「王宮の食堂に行けばサンドイッチか何か出してくれると思いますから、ちょっと一息つきませんか?彼女が目覚めない事には焦っても仕方ないですし──」
「うむ。賛成だな──」
クロコダインは椅子から立ち上がり、肩をぐるっと回すと深呼吸をした。
「レオナ姫も呼びましょうか。起きていますかね?」
アバンは廊下の長椅子にブランケットを掛け横になっているレオナをちらっと見た。
そのとき──
「あっ!ベラが!」
ダイの声が病室に響いた。
皆がぱっとベッドの方を向くと、ダイの顔の先に薄目を開けて目を瞬かせる彼女の姿があった。
「……ダイ様──」
彼女は少し掠れた声で呟いた。
どこかうつろな表情でダイを見つめている──
「ねえベラ──一体……何があったの?」
ダイが訊くと、ベラは苦しそうな表情をして押し黙ってしまった。
「ベラさん──でしたね。少しずつで良いので何が起きているのかを説明していただけますか?私達はあなたをどうこうしようというつもりはありません──」
アバンが割って入ると、ベラはおもむろに話し始めた。
「──魔界には大魔王バーン、私の父である冥竜王ヴェルザー、そしてビシュヌという者が率いるもうひとつの勢力があります──父が一時的に力を失っているこの時を好機とばかりに、彼らは魔界の実権を強引な形で奪おうと軍隊を送り込んだのです」
ポップは落ち着かない様子で足をしきりにパタパタと動かしている──
「父の配下の竜達は、ほとんどが殺されてしまいました──」
ポップが話を遮った。
「──ちょっと待て」
「今『一時的に』って言ったか?ヴェルザーは確かおれがメドローアで粉々にしたはずだぜ──」
「──冥竜王は不滅の魂を持っています──そのため、完全に肉体や魂が消滅するということはありません。父はすぐに復活ができないだけで、まだ生きているのです」
ポップは驚愕すると、吐き捨てるように呟いた。
「あいつ、まだ生きてるって言うのかよ……しぶといにも程があるぜ──」
ベラは続ける。
「彼らは今、敵のいなくなった魔界を支配しました……そして今──この地上をも支配しようとしています──」
ダイ達に緊張が走った。
「だから助けてくれ──なんて言うんじゃないだろうな──」
ポップと反対側の壁際に座っていたクロコダインが厳しい口調で言った。
「そいつらが地上に侵攻してくるなら、オレは命をかけて阻止するまでだ──しかし、お前やヴェルザーがどうなろうと知った事ではない──」
彼はベラの顔を見ずに続けた。
「そもそもお前らはその勢力と戦おうとしていたのだから、自業自得というやつだろう?その為にお前ら親子はダイを攫って5年間も……ダイが戦うも戦わないも、もうダイ本人の自由なんだ。お前らから何か指図される謂れなどこれっぽっちもない──!」
「──勿論、私達がした事は当然許されることでは無いと思っています──そして、あなた方に助けを乞う事が不相応であると言うことも理解しています……」
ベラがそう言うと、ポップも皮肉っぽい口調で反論した。
「じゃあ……お前は傷が治ったら魔界に帰って、そのなんとかって奴に見つからないようにひっそりと暮らせよ。それが道理ってもんだろーが」
「──はい……」
「ねえ、ポップ?」
話をじっと聞いていたダイが話を遮った。
「お?」
「クロコダインやポップが言ってる事はさ──おれももっともだと思うけど……」
「うん?」
クロコダインも片目の瞼を少しあげてダイの方を見た。
「こういう大変なことが起きた時って、出来るだけ協力し合った方がいいんじゃないかな、って思うんだ」
「おい……ダイ!?お前……」
「むっ……」
ポップとクロコダインはダイの思わぬ発言に狼狽した。
ポップはダイの胸ぐらを掴んで捲し立てた。
「お前……お人好しすぎんだろ!?ヴェルザーに何をされたか覚えてないのかよ!?この女もクロコダインやラーハルトに何をしたか──お前見てたんだろ?それなのに……せっかく……お前はまた同じことを……」
今にも泣き出しそうな顔をしているポップにダイは真剣な表情で言った。
「そりゃ──クロコダインやラーハルトを傷つけた事は許さないさ……」
ダイの手が震えている。
「それに、まだ相手がどんな奴かもわからない……でも……大魔王を倒した時みたいに、みんなの力と心を合わせないと──今回も多分勝てないと思う」
「それに、おれはもう前みたいに──みんなの太陽になるとか、犠牲になる為にひとりで戦おうとしてるわけじゃないよ──おれが自分のために、大事なものを守る為に、おれの力を使いたいんだ。これは、おれのわがままだと思ってくれていいんだけど……」
「うーん……ダイがそう言うんじゃなぁ……」
ポップが答えあぐねていると、いつの間にかダイの隣に移動していたレオナが訊いた。
「──ねえ、ダイ君は本当に──それで良いの?」
「……うん ──多分、ベラは嘘は言っていないと思う。おれが魔界にいた時、地震が起きるとヴェルザーがその度にそわそわしてたんだ。『またあいつか』って……」
ダイのその言葉を聞いた途端、窓際に立っているアバンの顔が険しくなった。
「もし、ベラが裏切ったりしたら……その時はおれが責任を持ってなんとかするよ──」
ダイは目に力を込めてはっきりと言った。
「…………ダイ様……」
ベラは少し涙ぐんでいる。
「敵だの味方だの、そんな事言ってられねえ、ってわけか……」
ポップがため息をついた。
「ところで……」
突然立ち上がったレオナがベラとダイを交互に見て言った。
「その『ダイ様』って何?あんた達どういう関係なの?」
「──私は父上に万一の事があった場合、ダイ様に仕えるように申し付けられていました。ダイ様は夫になるお方だから、と──」
(あちゃー……どうなっても知らねえぞ──おれ……)
ポップはレオナと目が合わないように、こっそりと背を向けて窓の方を向いた。