状況が掴めない2人はあわてて音の発生源を探した。
注意深く辺りの様子を伺いながらバルコニーの縁まで行き、地上に目をやると眼下に戦車が見えた。
城門に入る時に見た戦車とおそらく同型のものだろう。
丸みを帯びたフォルムに紋章のようなものがデザインされている。
よく見ると、砲台がゆっくりと動いているのが分かった。
さらに見続けていると、砲台はどんどん角度を上げ、上空を向いて静止した。
砲台の先にあるのは…
「やべえ!まさか!」
「大変!!」
「王様は一体、どういうつもりなんだよ!!」
辺りを見回したが、ベンガーナ王の姿はない。
気球はどんどん近づいて来ており、そのシルエットがはっきりと見えている。
「やべえ…やべえよ!!」
「なんて事なの…」
逆光になって細部が見えにくいが、なんとなく籠に乗っている人物が手を振っているようにも見える。
2人の緊張がピークに達した時、
「どーーーーーーーーーーん!!!」
耳元で爆音がした。
「うわああああああああああ!!!!」
後ろを振り返るとそこには、ふざけた顔をしたベンガーナ王。
立ち尽くす2人をよそに王は続けた。
「大成功!!いやー!戦車も今はこんな事くらいしか使い道がなくてのう〜!弾はだいぶ前から抜いてあるから安心せい。ワッハッハッハ」
呆気に取られる2人。
ポップが下を向いてわなわな震えたかと思うと、唾を飛ばしながら怒鳴った。
「訳の分からねえことするんじゃねえーーー!この糞じじい!!」
ポップは王に飛びかかったと思うと、関節技をかけながら何か喚いている。
「すまんすまん!ほんのジョークのつもりだったんじゃよ」
「やめて!ポップ!王様よ!」
「それに、おまけに部下に変な名前教えやがって!!」
「いや…それは何のことじゃ!!」
「とぼけんじゃねーよ!!」
「やめてーーー!!」
大きな影が3人を覆った。
後ろから懐かしい声が聞こえる。
「おーい!ちょっとー!!何やってんのよみんな!」
振り返ると気球から降りて来たレオナが、腕組みをしながら呆れた顔をしている。
彼女はパプニカ王家の紋章入りのマントを翻し、バルコニーの縁まで歩いて行くと、下にある戦車に目をやった。
レオナはこちらに向き直るとため息をつきながら言った。
「 もう!まだこんな事やってんの!?──2人ともゴメンね。私はやめろって言ったんだけどね……ホントに呆れた王様よね!」
レオナに冷たい視線を浴びせられ、しょんぼりしているベンガーナ王を無視して、レオナは2人の元に駆け寄った。
マァムとしっかりと抱き合い、ふたりを見て言った。
「2人とも元気だった?」
「おう!もちろんだぜ!」
「元気よ!レオナは?」
「私もよ。パプニカの王女としての仕事は大変だけどね」
昔と変わらないレオナの笑顔が太陽に照らされていた。