「あれ?聞こえませんでしたか?ダイ君がどこにいるか……多分知ってますよね──」
ブラフマは手の上で自らが作り出したモンスターをボールのようにポンポンと弄びながら言った。
「──ふざけんなよ。例え知ってたとしたって言う訳ねえだろうが!!」
ヒムがこちらを向かずにぶっきらぼうに答えると、彼は残念そうな顔で僅かに口の端を歪めて言った。
「そういう態度は──命取りになりますよ」
ブラフマは指をぱちんと鳴らすと、ヒムが戦っているマドハンドのうちの1匹が手を握ったり開いたりするように動かした。
──まるで手招きをしているように見える。
直後、ズシンという音が響き、岩山の影から、身の丈4〜5メートルはあろうかというヒゲを蓄えた石像が現れた。
腕を振り上げ、足を踏み鳴らすと雄叫びを上げた。
「──おい……マジかよ──」
ヒムは呆気に取られた顔をしている。
マドハンドの数は2体にまで減っており、チウはやっと自力で動けるようになっていたが、ショックもあるのかまだ満足に戦える様子ではない。
「おい、隊長さん!どうやら本気でやらねえとまずいようだぜ……」
「ヒムちゃんごめん──ぼくとした事が、油断していたせいで──」
「来るぞ!!」
石像はチウとヒムを睨みつけると、一目散に駆けてきた。
「うわあああああああ!!」
後退り悲鳴を上げるチウ。
「落ち着くんだ!足を狙うぞ!」
ヒムが言うと、チウは震えを抑えつつ身構えた。
「おい!こっちだ!」
ヒムが叫ぶと、石像は振り上げた拳をヒムに振り下ろした。
それを素早いフットワークで避けると、ヒムは翻弄するように石像の脚の間を走り回った。
痺れを切らした石像がヒムを踏み潰そうと大きく片足を上げた。
「今だ!!チウ!転ばしちまえ!!」
「うおおおおお!!窮鼠包包拳!!!(きゅうそくるくるけん)」
攻撃体勢に入ろうとしたその時──
バランスを崩したのはチウの方だった。
マドハンドが再び仲間を呼んでいたのだ。
泥まみれの手がチウの短い両脚を掴んでいる。
それを見た石像はヒムから離れチウのいる方に駆け出して行った。
「う……動けない……!くそっ……離れろ!!」
「やべえ……!」
異変に気付いたヒムは血相を変えて後を追った。
「う、うわあああああ!」
今にも石像に潰されそうになっているチウに向かい、ヒムがヘッドスライディングをした。
──ヒムに弾き飛ばされたチウは間一髪、踏みつぶし攻撃を避けられた。
「──あっ、あ…………!」
土煙の中から現れた地面に倒れているヒムを見てチウは悲痛な声をあげた。
ヒムの腕が砕けて折れている。
身体のヒビも深くなっており、再び大きな衝撃を受けたら全身が砕けてしまいそうだ。
「ヒ……ヒムちゃん……」
「こんなの平気だぜ……バーンパレスでの戦いに比べたら屁でもねえ──」
「ふふ。脆いですねえ……仲間を庇ったばっかりに、というやつですか」
千切れたヒムの腕を見ながらブラフマは続けた。
「──あなた、オリハルコンで出来ているんですか──?さっきからなんか変だなと思っていたんですよ。やたらと命、命ってうるさいから──私から言わせると、あなたは貴重な素材なんですから、そっちの命拾いをしたネズミ君よりずっと価値がありますよ──」
「──うるせえ──黙れゲス野郎──」
ヒムの声が少し苦しそうだ。
「おや?けっこうダメージを受けていそうですね。大丈夫ですか?」
「それと──この腕はもらって行きますよ。何かに使えそうですし。どうせ再生するんでしょう?魔界の金属の特徴ですよね」
「お前なんか……お前なんか……」
チウが震えながら言った。
「えっ?何ですか?」
「自分の事だけしか考えていないやつに本当に強い奴はいない──」
「ふっ──」
ブラフマは嘲るように笑った。
「私はね、あなたのような中途半端な生き物が嫌いなんですよ──口だけは達者でムードメイカー?みたいな顔したお荷物君がね。そうだ。あなたもこのオリハルコンを合成すればもっと戦力になるんじゃないですか?良かったらやってあげましょうか?」
「おい──ぼくをあまり怒らせるなよ──」
「おお怖い!何をするつもりですか?」
「チウ──やめろ。逃げるんだ!」
「ヒムちゃん。ぼくはこいつが許せないよ。ぼくが馬鹿にされたからじゃなくて──ぼくが大切にしているもの全てを踏みにじるような考え方がね──」
マドハンドの群れや石像が一斉にチウに襲いかかった。
「君には──勇気というものが欠如してるんだ。自分の手を汚さず、安全な場所から自分に都合の良い事ばかり言って──そういうやつを何て言うか知ってるかい──『卑怯者』って言うのさ!」
「チウ──オレに構うな!逃げろ!!!」
ヒムの言葉を無視してチウは身構えた。
石像→
×うごくせきぞう
◯だいまじん
のイメージです。