「やめろ!逃げるんだ!」
ヒムの悲痛な声が響き渡る。
「ヒムちゃん……男には勝ち目が無かったとしてもやらなきゃいけない時があるのさ……」
チウはそう呟くと、目前に迫っているモンスター達の数と位置を素早くチェックした。
「窮鼠……包包拳!!」
チウはそう叫ぶとボールのように回転し、マドハンド達の周囲を囲むようにぐるぐると廻り始めた。
「あいつ……何をする気だ?」
ヒムが不思議そうな顔で様子をみている。
チウはスピードを上げながら少しずつ円の半径を狭め、まるで牛を追い込んでいくカウボーイのようにマドハンドを1箇所に集めていった。
(──今だ!!)
マドハンドがほぼ直線上に並んだその一瞬、チウはトップスピードで体当たりし、7体全てを一網打尽にした。
「おおっ!!」
土くれに戻っていくマドハンド達を見てヒムが歓声をあげると、チウは目を回しながら言った。
「たとえ呪文が使えなくたって、こういう戦い方があるってことだよ……ちょっと回転しすぎちゃったけど──」
岩の上で戦いの様子を伺っていたブラフマは感心したように呟いている。
「──ほほう。なるほどねえ──意外と考えてるじゃない──」
チウは服の埃を叩くと石像を見上げて叫んだ。
「さぁ──次はお前だな──粉々にしてやる!!」
チウは窮鼠文文拳(きゅうそぶんぶんけん)の構えを取るとまっすぐに標的に向かって駆け出した。
すると、それを待っていたかのようにブラフマは岩の上から嬉々としてチウにばくだんいわを投げつけた。
「粉々になるのはどちらでしょうかね──!」
冷酷な声が響きわたる。
しかしチウはそれを見透かしていたかのように急ブレーキをかけると、大地に足を踏ん張った。
口を真一文字に結び、落ちてくるばくだんいわをじっと睨んでいる。
「おい!危ねえぞ!」
ヒムが叫ぶと、チウはばくだんいわの真下に走り込み、ギリギリまで引きつけてレシーブで打ち返した。
それは弧を描くようにして飛んでいき、石像の膝に命中した。
そして、数秒後に大爆発を起こした。
閃光と土煙が消えると、石像は片足が砕け、がくりと地面にくずれ落ちていた。
「とどめだ!」
すかさずチウは窮鼠文文拳で突っ込み、石像の顔を真っ二つに砕いた。
「さすがじゃねえか!隊長さんよ!」
ガッツポーズを取っているチウを見て、ヒムは大声で叫んだ。
「ふふん──僕だってこの5年間、遊撃隊のリーダーとして何もしてなかった訳じゃないよ」
チウは鼻の下を擦りながら得意げに言う。
「おい、どんなもんだ!くるなら来い!」
チウはブラフマの方を見て叫んだが、そこには誰もいない。
「あいつ──逃げたのか?とことん卑怯なやつだな──」
不意にチウの背後から何かが走ってくる音が聞こえた。
振り向くと、それは砦に住みついている一角ウサギのアルミラージであることがわかった。
しかし、何やら気が動転している様子だ──
「おいアルミン!どうしたんだ!」
その姿をまじまじと見たチウは驚愕した。
背中に小型のばくだんいわがいくつもくっついている。
おそらく、ブラフマに合成されてしまったのだろう。
しかも、丸い尻尾には炎が灯され、そこからひっきりなしに黒い煤が上がっている。
当然、このまま自分にぶつかればお互い無事では済まないだろう。
しかし避けてしまえば、自分の背後にある石像の瓦礫の中に突っ込み、爆発は免れない──
「ひでえ……何てことを考えやがるんだ……」
ヒムは身震いした。
(どうする……どうする──?)
この哀れな遊撃隊の隊員は鋭い角を突き立てながらぐんぐんと自分との距離を縮めている。
チウは頭を振り、どうすれば良いか迷った。
「ラリホー!!」
不意に呪文を唱える声が聞こえてきた。
強烈な眠気に襲われたアルミラージはそのままスピードを落とすと地面に転がった。
その摩擦で尻尾に着いていた火も消えている。
「ふう……どうやら間に合ったわい」
そこにいたのはブラスだった。
「ブラスさん!?」
「何やら裏が騒がしいと思ってのう──まさか、こんな事になっていたとは」
するとどこかに隠れていたブラフマが姿を現した。
杖を構えるブラスを見ている。
「まだ仲間がいたとはね……しかし──」
一同の目がブラフマに集まった。
「呪文を使えるなら少し分が悪い──一度引き上げといきましょう……君たち、命拾いしましたね」
「おい!逃げる気か!」
チウが咎めると、ブラフマはにやりとして言った、
「腕だけにしようと思いましたが、やはり丸ごともらって行くことに決めました。取り戻したければ魔界に来なさい──」
「なにっ!?おい!ふざけんな!!」
ブラフマは騒いでいるヒムを無理やり肩に担ぐと、そのままルーラで消えてしまった。
「──くそっ……ヒムちゃんが……!」
チウが座り込み地面を叩いている。
「ワシらだけでは仕方のないことじゃ……チウ。お前ダイ達に知らせに行ってくれんか」
ブラスはまだぐうぐうと寝ているアルミンを見て力なく言った。