チウはすぐさまブラスに貰ったキメラの翼を使い、カール王国に飛んだ。
そしてベラの病室に駆け込むと、ダイ達にデルムリン島で起きたことを伝えた。
「──という事なんだ。不甲斐なくてごめんよ──僕がもっと強かったら……あんな奴……」
チウは悔しそうに両手の拳を強く握った。
怒りで体がぶるぶると震えている。
クロコダインは今にも消えてしまいそうに小さくなっているチウの隣に座った。
そして低く落ち着いた声で言った。
「チウ──お前がいなかったらデルムリン島はもっと取り返しのつかない事態になっていただろう……感謝こそあれ、お前を責められる者などいるものか。武人として俺はお前に敬意を表する──」
ダイもその後に続いた。
「チウは精一杯デルムリン島のみんなを守ろうとしてくれたんだよね。おれ、チウが居てくれて本当に良かったと思ってるよ」
「──目的のためなら何でも利用する、って感じよね……ただダイ君を探してるだけなんでしょ……?それなのにどうして他の生き物の命を弄ぶような真似をするの──?」
レオナが珍しく怒りを露わにしている。
「しかし、ヒムの野郎が攫われるなんて……只者じゃねえぞ……そいつ?」
ポップが険しい顔をしてダイの顔を見た。
「うん──何だか底知れない怖さがある──」
顔を曇らせたダイが応える。
話をじっと聞いていたアバンが眼鏡の位置を直しながら言った。
「──ブラフマが自分から姿を消したのは、明らかにダイ君を誘き寄せるための罠でしょう……しかしわざわざ魔界に戻った理由は何ですかね──?ただ誘き寄せるだけなら、わざわざこちらから行くのが難しい魔界を選ぶ必要はありませんよ──」
「じゃあ、おれたちが魔界に行く術がある事を、奴らは知ってる、ってことか──?」
ポップが顎に手を当てて言った。
「──とにかく行こう。どちらにしろ戦わなきゃいけない相手なんだ。このままあいつの好きなようにはさせないよ──」
力強く言ったダイの横顔を、レオナが愛おしそうに、そしてどこか寂しそうに見つめている。
ベラはベッドの上で居住まいを正すと、ゆっくり話し始めた。
「誰が魔界に行くかですが……それが可能なのは魔族、竜族、竜の騎士、そして魔界の瘴気に耐性のあるモンスター等、だと思われます」
「いま一度整理してみましょうか──」
アバンが手元にあった手帳に名前を書き出した。
・ベラ
・ダイ
・クロコダイン
・ラーハルト
・チウ(?)
・ポップ(竜化時のみ)
(・ヒム)
「人質のヒムは身体が我々と違いますから、おそらく魔界の瘴気の影響は受けないと思われます。その点では安心と言えますね──」
「まず俺が行くよ」
「私も参ります」
ダイが言うと、ベラも軽く手を挙げて応えた。
「無論、俺も行くぞ。チウはブラスさんと共に島に残って、何か異変が起きた時に対応してくれ」
クロコダインが言うとチウは黙って頷いた。
「ダイが行くのであれば当然ラーハルトも行くと言うだろうな──」
「お前ら──回復役が必要じゃねえのか?」
ポップが突き出した親指を自分の顔に向けて言った。
「──ポップ君は地上に残る事はできませんか?地震がまだ続いていますし、もし魔界から敵が現れた時のために戦力を残しておきたいのです。そもそもポップ君がドラゴンになった際、回復呪文が使えるのか、またどの程度の理性が残っているのかはまだ未知数ですからね──」
ポップは前に魔界からダイを連れ戻そうとした時、気持ちの昂りに任せ村を焼き払おうとして、ラーハルトに止められた事を思い出した。
「──じゃあ誰か回復出来るやつはいるのか?」
ポップが訊くとベラが手を挙げた。
「──ベホイミ程度であれば……」
「ベホイミかぁ……少し心許ないけど、無いよりマシ、ってとこだな」
「こんな時、おれが回復できればな、って思うよ──」
ダイが肩を落とす。
「ごめんね。私がついて行ってあげられれば──」
レオナが申し訳なさそうに言う。
「ダイ様は私が回復しますから大丈夫です──」
「いや──そういうことじゃなくってね……」
胸に手を当て澄んだ目で言うベラにレオナは冷たい視線を送った。
「短期決戦だな──いざという時は俺が盾になれば良い」
クロコダインが腰に両手を当てて言った。
「クロコダイン──くれぐれも無理はしないでちょうだいね」
「ああ、分かっている──」
レオナの脳裏にテランでバランを足止めした時の記憶が蘇える。
「──ダイがリーダーのチームって事は……新生竜騎衆ってとこだな──」
ポップはたったひとりで彼らに立ち向かった時のことを思い出した。
バランに率いられた彼らは皆、人間をひどく憎んでいた。
それがリーダーが変われば一転、人類の希望となるのだから全くわからないものだ。
本人に訊ける筈もないが、ラーハルトはあの頃の自分をどう思っているのだろう──
「ダイが竜騎将、ラーハルトが陸戦騎、ベラが空戦騎、クロコダインが海戦騎……おっ、ぴったりじゃねえか?」
ポップが言うと、ベラは真剣な表情でダイを見つめた。
「ダイ様……私の身も心も全てダイ様の物です──どうぞお好きなようにお使い下さい」
「なんか……あんたが言うと別の意味に聞こえちゃうのよね──」
何故か頬を染めているベラをレオナは物凄い顔で睨みつけている。
(ポップ──これはやはり修羅場というやつなのか……?)
クロコダインがポップに耳打ちする。
ポップは
(おっさん──絶対分かってて言ってるな……)
──と思った──
アバンは視線を彷徨わせると、流れを断ち切るように咳払いをした。
「おっほん……ダイ君。魔界へはどんなルートで行こうと考えていますか?」
「ブラフマの動きをチウから聞いた限り、やっぱり島の中に魔界とつながってる場所がある可能性は高いと思うんだ。まずはそこを確認しようと思ってるよ」
「では、まずデルムリン島に向かいましょう。私も行きます」
アバンが言うと、ダイはチウと顔を見合わせ頷いた。
レオナはベラがダイに何かしないか、厳しい顔で監視している──