「ラーハルト……お前の気持ちは分かるが──」
クロコダインが言いかけると、この魔族と人間の血を持つ戦士は横目でベラを睨んで言った。
「ダイ様のご意志だからこそ許せるものの……正直、貴様がこの地上にいるというだけで虫唾が走る──そもそもあのヴェルザーの操り人形が実戦でまともな判断が出来るか怪しいものだな。ダイ様の足を引っ張らないとも限らん──」
「──私は父上の操り人形ではありません──」
ベラが少し顔を顰めて答えた。
「──ほう……では、俺の足に槍を突き立てたのも自分の意思だと言うのか」
「それは……」
「それなら、今ここでお前を粛清しても文句は無いな──」
「ちょっと!あんた達やめなさい!」
一触即発の雰囲気に慌ててレオナが割って入った。
「──曲がりなりにもバラン様の竜騎衆の名を背負うなら、浮ついた気持ちでダイ様に仕えることはこの俺が許さん──自分の甘さでダイ様を危険に晒すなどもっての外──生命を捨てる覚悟でダイ様の盾になる事こそ、本来の我らの役目なのだ──」
陸戦騎から厳しい言葉を浴びせられたベラは俯いてしまった。
その様子を見守っていたダイだったが、やおら立ち上がると優しい調子で話し始めた。
「ラーハルト、気持ちはよく分かったよ。ありがとう──でもおれ、ひとりひとりの戦う理由なんか、何でも良いと思うんだ。自分が命をかけても良いって思える理由があるならそれで構わないと思うし、それぞれが心から協力し合えば、きっとどんな敵にも負けないと思う──だから、ラーハルト。少しだけ我慢してあげてよ──」
「──承知いたしました……ダイ様──」
ラーハルトは跪いて答えた。
「ねえ……ダイ様はやめてくれよ……」
「ダイ………………様……」
「もう──!」
ふたりのやり取りを見て、皆の顔が綻んでいる。
「──それにしても何も起きんな。やはり魔界と繋がっているというのは噂であったか──」
「うん──そうかもしれないね」
クロコダインの言葉にはそう答えたが、ダイの頭の中には疑問符が浮かんでいた。
洞窟の入り口から漂う空気の中に、確かにこの世のものではない、何者かのうすら寒くなるような悪意を感じた。
魔界にいた5年間がダイの感覚をよく磨がれたナイフのように研ぎ澄ましていたのだ。
ダイはふと道具袋の中をまさぐると大声をあげた。
「──あっ!」
「どうしました?」
「おれ……忘れ物しちゃった。アバン先生。ちょっとブラスじいちゃんの家に取りに行っても良いかな?」
「はい。まだ私たちはここに居ますから大丈夫ですよ」
「ちょっと行ってきます!」
ダイが慌てて走って行った。
「ダイ様が忘れ物とは珍しい──」
「何かしらね──薬草でも取りに行ったとか──」
ラーハルトとレオナが会話するともなく会話をしている。
皆で小さくなっていくダイの背中を見送ると、クロコダインは落ち着かない様子で言った。
「──こうなれば破邪の洞窟から行くか……それとも他の場所を探すか?どちらにしろあまり時間は掛けられんな──」
残りの候補はテランのアルゴ岬とリンガイアのギュータ地方。
直線距離で言うと破邪の洞窟のあるカール王国よりアルゴ岬の方が近いが、魔界への入り口が見つかる保証はない──
その時、突然どすん、という音が響いた。
「──ねえ、なんだか揺れてない!?」
いち早く気付いたレオナが言うと、揺れはすぐにどんどん大きくなっていった。
「大きいぞ!」
「きゃーっ!」
あちこちで天井から岩が剥がれ落ちる音が聞こえてくる。
「これは──まさか……」
ベラが何かに気付いた。
祭壇の奥の壁に亀裂が入っている──
揺れが長引くにつれ、ヒビはどんどん大きくなる。
ついに壁が剥がれ落ちると、壁の向こうから湧き出るように灼熱のマグマが大伽藍の中に流れ込んできた。