ベラの灰色の瞳がいつになく鋭い光を放っている──
彼女は棒立ちになっているラーハルトに詰問した。
「私がダイ様を裏切ると──?私がビシュヌの顔を知っていることが一体どうして裏切りなのですか?」
じっと黙り込んでいる陸戦騎の顔を、ベラは怒りを押し殺した顔で見つめている。
やむなし、と思ったのか、クロコダインが口を挟んだ。
「ラーハルト。許してやれ──事情は知らんが、こいつはこれまで魔界に長く居たのだから、そのなんとかという奴の顔くらい見た事があっても不思議では無かろう──」
自分にもこの状況を作ってしまった責任があると思い、ダイもクロコダインの言葉をフォローした。
「そうだよ。これから力を合わせて戦うっていうのに、いちいち疑ってたらキリがないしさ。おれだってさっきのはそんな意味で言ったんじゃないから──」
しばし流れる沈黙──
「──すまん──俺が言いすぎたようだ……」
皆に嗜められたラーハルトは思いのほか素直に引き下がった。
その肩をクロコダインがお疲れさん、というようにポンと叩くと、彼は何事も無かったかのようにダイ達と共に足を進めた。
しかし、依然として疑念は残る──
(あの慌てようは一体……)
突然ダイ達のゆく手にサンドマスター2匹とさそりアーマーが現れた。
どうやらモンスター達はおどろき戸惑っているらしい。
攻撃せずにじっとこちらの様子を窺っている。
「行くぞ!」
クロコダインが飛びかかりサンドマスターを真っ二つにすると、ベラが残りのモンスター達に向かってイオラを唱えた。
ダイが呪文のダメージを受けているもう1匹のサンドマスターを追撃して倒すと、辺りを伺いながら立ち尽くしているさそりアーマーにラーハルトが2段突きを繰り出した。
装甲の弱い部分を狙いうちされたさそりアーマーは悶え苦しみながら、先の鋭く尖った尻尾を近くにいたベラに向かって半狂乱で振り下ろした。
ベラに当たる瞬間、眼前に飛び出したダイがモンスターを横に薙ぎ払うと、さそりアーマーの上半身はずるりと横にずれ、砂の上にがくっ、と転がり落ちた。
ダイは剣を仕舞うと振り向いて言った。
「俺たちの初のチームプレイだね!」
汗を拭きながらニコニコしているダイにラーハルトは微笑みを返した。
ベラは溶岩魔人との一戦を知らないダイの無邪気なひとことに思わず吹き出しそうになるのを我慢している──
砂漠をしばらく行くと集落が見えてきた。
中央に広場があり、周りに石造りの家が少しと粗末な商店がいくつか。
店先には植物の蔓で編んだロープや筵、そして穀物の粉のようなものが並べられている。
「今日は一旦ここで休まんか──このまま歩き続けてもすぐにはヴェルザーの城に着かぬだろう」
「うん、そうしようか。だいぶ歩いたからね」
クロコダインの言葉にダイは頷いた。
「私は宿が借りれるか探してきます」
「うん。お願いするよ。ベラだったらみんな断らなそうだし」
彼女は少し照れ臭そうにふふっ、と笑った。
しかしベラがあちこちを見て回ったものの、一向に住人の姿は見えない。
「ダイ様……家の中には誰もいないようです……」
「こっちも誰もいないよ──おーい!すいませーん!誰かいますかー?」
ダイが大声で叫んだが返事はない。
「なんとなく人の気配はするんだけど……おかしいなぁ……」
家の中庭に干してある洗濯物を見ながらダイは首を傾げた。
その時、背後でがさっという音がした。