「よく抜け出して来れたわね」
「私が抜け出すのは王宮のみんなももう慣れっこだから。あと、今回は事情が事情でしょ?」
「あと……レオナ、すっごくキレイになったわ!」
「ホントに!?うっれしー!!」
「確かにこう……なんか色気が増したっつーか、大人の階段を登り始めたっつーか」
「あんたは黙ってなさい」
マァムがポップの後頭部をどつくと、すかさずレオナがマァムの手を取り、小走りでバルコニーの端にある小屋の陰に連れて行った。
周りに誰もいない事を確認すると、レオナは小声でマァムに聞いた。
「ポップとはどうなの?あれからなんか進展はあった?」
「キスくらいはしたの?あっ……もしかして……」
「いや……何も変わってないけど」
「えっ何で!?一緒に旅とかしてたんでしょ!?」
思わず大声になってしまった事に気付き、ハッとして手で口を押さえるレオナ。
「そうなんだけど……あれから何となくうやむやになっちゃって…」
「あー、メルルもいたもんね。それは難しいわよね」
「でも2人っきりになる事もあったでしょ?」
「そうだけど…なんか2人っきりになると何も話せなくなっちゃって……ケンカならいくらでもできるのに」
「かーっ!もうなんなの……」
頭を抱えるレオナ。
「分かった。やっぱりヒュンケルの事が気になってるんでしょ!?本当に優柔不断なんだから」
「別に……そういう訳じゃ……」
「あー!そういうところ!もうじれったいなぁ……」
ポップが裏側で耳をダンボのようにして聞き耳を立てている。
(くそ……全然聞こえねえ……)
「レオナはやっぱり……その……ダイが──」
マァムが言いかけると、レオナはそれにかぶせるように早口で言った。
「まあ、私くらいの美貌だと毎月のように色々な国の王子からラブレターが届くけど、毎回読まずに捨ててるわね。お見合いって柄でもないし、まだ私は自由でいたいの……ほら、仕事も忙しいし、今は仕事が恋人っていうか?」
(やっぱりダイの帰りを待ってるんだ……)
マァムは心の奥がじん、と熱くなった。
ポップは柱に耳を当てて、体全体で会話を聴き取ろうとしている。
ポップは、離れたところから2人にじっ、と冷たい目で見られている事に気がついた。
「あっ……!」
「何?聞いてたわけ?」
「いや……あーこれは……その……」
「変態」
「ドスケベ魔道士」
「マトリフ2号」
女子ふたりが軽蔑の眼差しを浴びせながら口々にポップを責め立てた──
「いや……!何も聞こえなかったぜ!信じてくれよ!」
「ちょっと!!やっぱり聞こうとしてたんじゃない!!」
「絶対許さない」
「あんた、アバンのしるし返しなさい」
マァムがそう言うと、観念したのかポップは土下座して頭を垂れた。
「わ……分かったよ!す、すまねえ……」
ポップを取り囲む2人の女子──
そして、見張り塔から双眼鏡越しにそれを見ているベンガーナ兵士──
(なんだあれ……?)