ダイ達が振り返ると、そこには竹槍を構えた少年が立っていた。
草染のカーキ色のズボンに白いシャツ、濃紺色のマントの様なものを羽織り、足元は裸足──
よく見れば体はぶるぶると震え、刈り込まれた髪の下にある幼い顔は緊張で強張っている。
「お前たちもあいつらの仲間なのか──?」
今にも泣き出しそうな顔で振り絞るように叫ぶと、槍をぐっと前に突き出した。
状況が掴めないダイ達──
ハッと気付くと、ダイは微動だにしない少年に優しく訊いた。
「──あいつらって誰のこと?」
しゃくりあげるように少年は話し始めた。
「あいつら……あいつら……みんなを攫って……モンスターに変えちまうんだ──友達のメイ達も……みんなも……うっ……うっ……」
「──おれたちはそんな事出来ないし、そんなやつと仲間でもないから安心してよ──」
ダイの言葉に安心したのか、少年はふっと力が抜けたように槍を持ったまま地面に膝をついた。
その時、遠くから怒声が聞こえてきた。
「こぉーらっ!!このバカ野郎!何やってんだお前はっ!!」
突然老人が走ってきたかと思うと少年の頭にゲンコツを喰らわせた。
呆気に取られるダイ達に老人は頭を下げて言った。
「本当に申し訳ありません──見ず知らずの方に大変失礼な事を……」
無理やり少年の後頭部を押し下げている老人にダイは恐るおそる聞いた。
「あの……おれたちは全然大丈夫だから──それより、人を攫ってモンスターに変えてる、って話を聞かせて欲しいんだ」
ダイに促された老人は渋い顔をして話し始めた。
「実は……おととい──自分は『神』だと名乗る、首に数珠を付けた男がやって来て、村の人々を攫っていってしまったのです──足りなければまた来る、と言い残して……あいつは私たちの目の前で人をモンスターに変えて見せました」
ダイ達に緊張が走った。
「──どうしてそんなことを……」
「さぁ……神の宿敵を倒す為、とかお前らみたいに弱く価値が無い者が神々の役に立てるのだから、光栄に思え、とか何とか言っていましたが……」
「神の宿敵?」
ダイの代わりにクロコダインが聞き返した。
「はい──確か……『ダイ』という怪物を倒す為だとか──」
そこまで言うと突然少年が割り込んできた
「ダイなんてやつ早く死んじゃえば良いんだよ……そんな怪物がいなければメイも他のみんなも……」
「こら!ベド!!大人の話に入ってくるんじゃない!!」
「────メイっていうのは君の友だち──?」
ダイが動揺を悟られないように注意しつつ、優しく聞き返した。
「そうだよ!おれがいつも遊んでた子なんだ──」
「そのメイという女の子と弟、そしてふたりの母親も攫われてしまいました──この子の前でメイ達の母親はサソリの化け物に変えられ、メイと弟は巨大なミミズのようなモンスターに……」
──それを聞いた瞬間、ダイは心の中に空虚な闇が広がっていくのを感じた。
ダイの脳裏に浮かんでくる、上半身がずれたさそりアーマーの姿、そして真っ二つになってのたうち回るサンドマスターの姿。
ダイの頭の中で「怪物」という少年の言葉がリフレインしている。
ダイの頭の中に次々とイメージが浮かんでは消えていった。
デルムリン島で自分を出迎えてくれたモンスター達の笑顔。
「お兄ちゃんこわいよおっ!」とレオナに抱きついて泣いていたベンガーナの女の子の声。
竜魔人となった自分が何か叫びながら大魔王バーンの顔を殴りつけている記憶──
悪魔が背中にしがみついているような気がした。