その後の老人の話はまるで耳に入らなかった──
ダイは息をするのも忘れ、ぼうっと虚空を見つめている。
自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないか?
この子の最後の希望の芽を摘んでしまったのは自分なのではないか?
そんなぞっとするような疑念が悪魔の姿を借りて、暗闇から逃げようとしている自分の襟首を掴んでいるようだった。
「ねえ!お兄ちゃん!?」
青い顔をして突然ひとことも喋らなくなってしまったダイを心配し、ベドと呼ばれていた少年が声をかけた。
ダイはハッと気付くと、心ここに在らずという様子で返事をした。
「うん──大丈夫だよ……」
「お兄ちゃんも疲れてるだろ?何も無いところだけどせっかくだから休んでいきなよ」
「う、うん……ありがとう」
老人の後をついていくと、彼らはやや小ぶりな茶色いレンガ作りの家に通された。
家の中は薄暗く、思ったよりも入り組んだ構造になっている。
「ここは例のメイ達の家だ──使ってやっておくれ。部屋は十分にある──」
老人がいなくなると、4人は敷物が引いてある来客用の部屋に集まり、車座になった。
しばらく皆黙っていたが、クロコダインが意を決したように咳払いをして話し始めた。
「ダイ……さっきの事だが……」
脱力した様子のダイが怠そうに顔を上げた。
「お前は自分が例の親子を殺してしまったと思い込んでいるようだが、あの程度のモンスターは砂漠には幾らでもいる。まだそうと決まったわけでは無い──」
ラーハルトもクロコダインの話が終わったのを見計らって矢継ぎ早に話し出した。
「そうですダイ様──私の勘ですが……ブラフマがただ村の人々を脅すだけの為にモンスターにしたとは考えにくい──自分達の根城に連れて帰らなくてはならない何らかの理由があったはずです──「足りなければまた来る」と言っているのに、それをわざわざ途中で置いていくような真似はしないでしょう。また──ブラフマが来たのはおとといと言っていました。少なくともこの砂漠にはあいつらの拠点になりそうな場所はありません。一度攫われた魔族の女子供が砂漠より外側の地点から逃げ出して、短期間であんな砂漠の真ん中まで戻ってくる事が出来るでしょうか──?」
確かに2人が言うことはいかにも正しいような気がした。
「うん……確かにそうと決まったわけじゃないね──」
「ダイ。どうだろうと──降りかかった火の粉を払うのは当然の事だ──実際がどうであろうと、お前が気に病む必要はないぞ──」
「うん……ありがとう。少し気が楽になったよ──」
無理をして笑顔を作るダイをベラは心配そうに見つめていた。
やがて夜になり人々が寝静まった頃、寝付けずにいたダイはひとり中庭に座り、遠くで鳴る風のうなり声を聞きながら、空を見上げていた。
昼間のことを少しでも忘れたかった。
少しでも考えると、背中にあの悪魔が現れるような気がしたから。
空に白く浮かぶ、うつろな光を放つ魔界の太陽を見つめていると、不思議と心が落ち着いた。
その時、ダイは隣に人影があるのに気付いた。