顔を上げると、微笑んでいるベラと目が合った。
「やっぱりダイ様でしたか──」
ダイは彼女から少し斜めに視線を外して答えた。
「なんだ……ベラも眠れないの?今日は色々あったもんね──」
「ええ──なんとなく目が冴えてしまって──」
ベラはそう言うとダイの隣に座った。
ふたりはしばらくひとことも喋らずに、ただ遠くから聞こえる風の音を聴いていた。
──魔界の太陽はその昔、神によって作られたという。
不安定に形を変える魔界の空の中で、妙にくっきりとした輪郭をもつこの白い天体──
どんな役目があるのかは定かではないが、一説には神が魔界の民を憐れんで作ったとも言われている。
実際、それは誰も気付かぬうちに魔界に暮らす人々の心の拠り所となっているのかもしれない。
むしろ、ただそれだけの為に存在するのかもしれない。
風の音が途切れたとき、ダイは不意にベラに訊いた。
「ねえ──ベラはあの子の友達は無事だと思う?」
「──やっぱりその事が気になるんですね……」
「──うん……」
「うーん……私も、あの時倒したモンスターが例の親子であった可能性は低いと思います。ただ──ブラフマに攫われた人達が無事でいられるかは──正直、分かりません」
「──ああ……そうだよね。まずブラフマに攫われた事を心配するべきなんだよね……おれがあの子の友達を殺してしまったかどうか、って事よりも……ずっとはっきりしてることなんだから──」
ダイは落胆した様子でため息混じりに呟いた。
「おれ……勇者失格だよ──」
ベラはあっけらかんと答えた。
「──ダイ様。勇者に相応しいかどうかなんて、どうでもいい事じゃないですか?私はダイ様にそんな事を求めないですよ?」
ダイの身体がぴくりと動いた。
しかし、気にせずベラは続ける。
「生きているんだから──自分の気持ちを優先したい時があるのは当然なんじゃないですか?ダイ様は優しいから、自分より周りの人の気持ちを優先してしまうから──そうしちゃいけないって思ってるだけで」
「──おれって優しいの?」
ダイの声が震えている。
「はい。きっとこの世でいちばん──少なくとも私が今まで会ったことがある人の中ではいちばん優しいと思います」
「そうかなあ──」
「そうだ!──これからはダイ様が戦うのが嫌な時は戦わない、って決めたらどうですか」
「えっ!?そんなの──駄目だよ」
「何でですか?」
「だって……戦わないと弱くなっちゃうし──なんか自分だけ楽してるみたいで気持ち悪いよ……」
「──何なら私、弱いダイ様もいいなって思います。なんだかかわいいし……そもそも、強いとか弱いとかって、ダイ様に戦って欲しい人達が勝手に言ってるだけですよね?ダイ様は強いんです。竜の騎士なんですから」
「ベラはもし、おれがめちゃくちゃ弱くなってもそれでいいの──?」
「はい。私、弱い人好きですよ」
きっぱりと言うベラにダイは呆れたようにため息をついた。