翌朝、ダイたちは軽い食事をご馳走になり、砂漠の村の住人達に丁寧に礼を言うと再び北に向かった。
いつもは迷わず先頭を歩くダイだったが、今日はクロコダインに続いて少し後ろに下がった位置を歩いている。
その事に気付いたラーハルトはダイの様子を注意深く観察した。
(やはりダイ様は昨日の話を気にしているのか……無理をさせるような事があってはいけないな──)
「──ねえ。みんなちょっと相談なんだけど──」
皆がダイの方を向いた。
「今日はおれは戦わないで、みんなに指示を出すっていうのは──どうかな──?」
下を向いてダイが言うと、クロコダインは胸を叩いて言った。
「ああ、構わんぞ──大将はいざという時に出ればいいのだからな。オレに任せておけ」
「──もちろんオレも賛成です。竜騎将としてダイ様が指示を出すのは当然の事……何なりとご命令下さい──」
「私も賛成です──」
こちらを向いているベラは(ね?)という顔をしている。
「──みんな、ありがとう。じゃあ──おれ、慣れないけどやってみるね」
砂漠の向こうに黒々とした岩山が見えてきた。
ヴェルザーの城にかなり近づいてきている。
昨日と比べてダイの気分は落ち着いていたが、心の奥底では──
このままモンスターと出会わなければ良いのに──と思っていた。
自分が戦わないとはいえ、間接的にモンスターにとどめを刺す事には変わりはないのだから──
いざ戦闘に入ったら、本当に指揮を出せるのだろうか。
怖気付いて仲間を置いてその場から逃げ出してしまうのではないか──
しかし、ベラはそんな弱い自分の事も好きだと言うのだろう──
(……だから簡単に死んだりしないので安心して下さい)
ベラの言葉が頭の中に甦ると、ダイは自分が何処までも落ちていくような不安な気持ちになった。
上の空で歩いていたダイは、不意に何かにつまづいてよろけた。
足元をよく見ると、砂に埋もれているモンスターの骨だった。
よく見ると、旅をしていたであろう者の踏み荒らされた屍や衣服の切れ端も周囲に散らばっている。
旅人達がモンスターと戦った結果相打ちとなり、そのまま両方とも動けず力尽きた結果、遺骸が風化してしまった──
そんなところだろうか。
「……哀れなものよ」
ラーハルトが沈痛な表情で言った。
「砂漠の出口付近は旅人も油断しているからな……モンスター達にしてみれば絶好の狩場という訳だ──この辺はエサになる物も殆ど無い……」
それを受けるようにクロコダインが淡々と呟いた。
その時、遠くから笛のような、悲鳴のような鋭い音が聞こえてきた。
「──これは……竜の声です」
ベラが言うと皆は耳を澄ました。
「でも、こんな鳴き方普段はしません──身に危険が迫っていたり、子供に危険が及んでいるなどの緊急時以外には……」
「ヴェルザーの城の方?」
「おそらくは──」
「一体ブラフマ達は何をしようとしてるんだろう……」
その時、ズン──と地鳴りのような音がし、突然地面から砂塵が吹き上がった。
後ろだ──
誰かが叫んだ。
しかし噴き上げられた砂埃のせいで敵の大きさや種類が把握できない。
姿の見えないモンスターが砂の中からいきなりダイたちに襲いかかって来た。
突然の鋭い一撃──
「ぬっ!!」
クロコダインは腕を反射的に引っ込めた。
「クロコダイン!!腕切られてる!」
「大丈夫だ……!回復が必要な程ではない──」
クロコダインは血が滲んでいる腕を荒々しく擦ってみせた。
ようやく目が慣れてくると、砂を吐き出しながら敵はその姿を現した。
じごくのはさみ、そしてサンドマスター2体──
ダイ達がモンスター達の姿を認めた直後、サンドマスターが体を大きく捩らせ体当たりしてきた。
攻撃体勢がまだとれていないラーハルトは咄嗟に槍を構え防御した。
強い衝撃に思わず後ろに仰け反りそうになる。
「くそッ……オレとした事が、あの声に気を取られて気配に全く気付けなかった──!」
体勢を整えようとした矢先、続いてもう一方のサンドマスターが砂を吐きかけてきた。
再び砂煙に包まれるダイ達──
その時ダイは背後に身震いするような気配を感じた。
とても禍々しい……悪魔のような──
ダイが振り返ると、そこに巨大なおおさそりがいた。