普通サイズの3倍はあるだろうか──
目の前に立ちはだかったおおさそりが尻尾の先をこちらに向けて威嚇している。
腹部の横から伸びる夥しい数の脚と悪魔の尻尾のように反り返った毒針。
そしてぴかぴかと光る禍々しいハサミ──
その身震いするようなグロテスクな造形は、まるでこの世の悪意を凝縮した存在のように見える。
悪魔は背中やハサミからさらさらと砂を落としながら、ダイを追い詰めるように近づいてきた。
いつの間にかまたダイの頭の中に呪いの言葉の断片が甦ってきた。
(──母親はサソリの化け物──メイと弟は巨大なミミズのようなモンスターに)
(『ダイ』という怪物を倒す為──)
(死んじゃえばいいんだよ──)
(お兄ちゃんこわいよおっ!)
ダイが差し迫っている危険にようやく気づいたのは、その鋭く尖った毒針が振り上げられた瞬間だった。
「ダイ様!」
振り向いたベラの叫び声で我に帰ったダイは素早く後ろに転がると間一髪で毒針を避けた。
しかしダイは戸惑ったまま、戦意を喪失してしまっている。
おおさそりは次は狙いを外すまい、と思っているのか、大きなハサミを振りかざし、ダイににじり寄った。
(ああ──ダメだ──次はやられる──)
指示を出す──なんて言ったけど、結局自分はまともに動けないじゃないか──
後ろではクロコダイン達が別のモンスター達と戦っている。
じごくのはさみがスクルトを唱えているためダメージが通っておらず、こちらに気を向ける余裕はなさそうだ。
ハサミがダイの首に振り下ろされる──
弱いって、やっぱりだめだよ──ベラ──。
「ヒャダルコ!!」
ダイが頭を下げてじっとしていると、
突然呪文を唱える声が響き渡った。
ふっと冷気が漂ってきた事に気づき顔を上げると、おおさそりが氷漬けになっていた。
「ダイ様……!よかった──」
「あの──おれ……」
「気にしないで下さい!一旦体勢を立て直しましょう!クロコダインさん達にもベホイミをかけてあげないと」
「そうだね──指示を出すって言ってたのにおれがこんなんじゃ──」
ダイは苦戦しているクロコダインとラーハルトの方を見た。
「……うっ……」
突然ベラの呻き声が聞こえた。
ダイが振り向くと、ベラが地面にうずくまっている。
ダイは地面に何かが転がっている事に気が付いた。
ベラの右手首だった。
おそらくサイズが巨大なため、ダメージは受けつつも、ヒャダルコ一発では体力を完全に削ることができなかったのだろう。
氷の粒で体の大部分をコーティングされたまま、ベラの背後で勝ち誇ったように悪魔はハサミを振り上げている。
「ダイ様──すいません油断しました」
ベラの手首から暗い青緑色の血が滴っている。
何が起きたのか理解できなかったダイは声にならない声をあげた。
「私の血……ダイ様と同じ色じゃないから──びっくりしますよね」
一瞬ダイの意識が遠のく──
「──ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
気がつくとダイは絶叫していた。