ちょうどその時、バサっという音がして、ダイ達の頭上を何かが通り過ぎた──
しかし身構えた時には既に時遅く、それは凄まじいスピードで空の彼方に飛び去っていった。
「なんだ?今のは──?モンスターか?」
目を瞬かせながらクロコダインが呟いたが、もう確かめようがない。
その事に気付くと、彼らは気を取り直し歩き始めた。
しばらく歩き砂漠を抜けると、目の前に黒々とした大地が広がった。
ラーハルトが地面の枯れ草を踏みしだきながら呟いた。
「──しかし、またここにやって来るとはな……」
暗い森を抜け、一行がヴェルザーの城に向かう山道の入り口に差し掛かった時──
がさり、という音と共に木の陰からモンスターが現れた。
赤いゼリーのような透き通った体にブルーの触手。
ベホマスライムらしいが、ところどころにキズを負っている。
こちらに気付いている様子はない──
ダイ達が岩の陰に隠れてその様子を見ていると、フワフワと漂っていたベホマスライムは左右に揺れた後、力尽きベタっと地面に落ちてしまった。
それを見るや否やダイは駆け出した。
「大丈夫!?」
見るとダイはこの倒れているスライムのそばにしゃがみ込み、傷の深さを調べている。
3人が近づくと、ダイは悔しそうに呟いた。
「瀕死だ……もう自分でベホマをかける力もない──」
ダイはいそいそと腰の袋から薬草を1枚取り出した。
良く揉んだそれを何枚かに千切った後、スライムの口に押し込み、入りきらなかった分は傷に擦り込んだ。
「なんとかもってくれよ──」
ダイが祈るように呟いた。
すると、少しずつベホマスライムは息を吹き返し、やがて空中に浮けるほどにまで回復した。
「やったー!」
「ダイ様──何故こいつを助けたのですか?」
ラーハルトが訊くと、ダイは微笑んで答えた。
「なんか──ほっとけ無くてさ──それにこいつはそんなに悪いモンスターじゃない。あまり殺気みたいのを感じないし、おれたちと会って寧ろちょっと困ってるみたいだ──」
ダイの言う通り、目の前のモンスターは攻撃を仕掛けてくる様子もなく、おろおろとダイ達の周りを飛び回っている。
「そうだ──!回復した所で悪いんだけど……」
ベホマスライムはダイに呼びかけられると、突然ビクッと身体を震わせて止まった。
「もし良かったら──おれたちと一緒に来てくれないかな。ブラフマってやつと戦うのに回復ができる仲間が居ると心強いんだ──おれはダイって言うんだけど、モンスターの友達もいっぱいいて……」
ダイという名前を聞いた途端、ベホマスライムはあからさまにショックを受けた様子で震え始めた。
(あっ……)
砂漠の村での老人の言葉が皆の脳裏に浮かんだ。
ベラが半信半疑のまま、安心させるように猫撫で声で言った。
「大丈夫──ダイ様は悪魔なんかじゃありませんよ。それにブラフマを倒せば元に戻れるかもしれませんよ──」
ベホマスライムはしばらくの間、細い触手で腕組みをしながらぐるぐると辺りを飛び回りつつ逡巡していたが、やがて観念したかのようにダイの元に戻ってきた。
「ありがとう。心強い仲間が増えたよ──よろしくね!」
ダイが満面の笑みで触手を握った。
「あっ、でも──そうだ。きみの事、なんて呼べばいいんだろう?」
そう言うとダイは腕組みをして真剣に何かを考え始めた。
皆が固唾を飲んで見守っている──
突然カッと目を見開くとダイは嬉々として話し始めた。
「──そうだ!魔界で会ったから、『マー君』っていうのはどうかな──?」
ベホマスライムはガーンと衝撃を受けている。
「ま、まあ……良いんじゃないでしょうか──」
ベラが笑いを堪えながら振り返ると、クロコダインとラーハルトはベラと目を合わさないようにそっぽを向いて咳払いをしている。
「じゃあ、『マー君』で決まりだね!!」
ダイがそう言うとマー君は再びショックを受けた。