ポップ、マァム、レオナの3人はベンガーナを出発し、北西の方向に向かった。
「気球に乗るのなんて久しぶりだぜ」
「気球ってこんなに気持ち良い乗り物だったのね。眺めも良いし最高!」
「ふふ。前にみんなで乗った時は景色を見る余裕なんかなかったものね」
「ほら!ポップ!あそこランカークスじゃない?」
マァムが東の方角を指差した。
「こんな高いところからじゃよく分かんねえけど、言われてみればそうかもな」
「あっ!ポップのお母さんが手を振ってるわよ!」
「えっ!?本当か?どこだ?」
「ほら!あそこにいるじゃない!」
気球のカゴから身を乗り出すと、ポップはマァムが指差す方向を必死に追った。
「えっ?どこだよ?」
「ふふふ。ウッソー!自分でこんな高いところからじゃ分かんない、って言ってたじゃない」
マァムがゲラゲラ笑っている。
「お……お前!!ふざけんなよな!!さっきからバカにしやがって!!なんだ?まだベンガーナの事、根に持ってんのかよ!」
「はぁ?騙されたからって何よ!」
「お前が重すぎるからこの気球、スピード出ねえんじゃねーのか?」
「……ポップ、もう一度言ってごらんなさい(ポキポキ)」
(……こわ……)
「お……おう!何度でも言ってやらあ!!お前のケツの重さのせいで高度が下がってんだよ!だからお前にはかーちゃんが見」
ガッ!!!
マァムの肘打ちがポップの下顎に綺麗に決まった。
ポップはカゴの縁に引っかかったまま気絶している。
「ホントに……いつまでもガキなんだから」
気球の操縦をしていたレオナが振り返った。
「ちょっと2人とも!!仲がいいのは良いけど、あまり揺らさないで!気球の操縦ってけっこうシビアなのよ!」
「あっ……ごめんなさい……」
マァムが恥ずかしそうに下を向くと、先ほどよりいくぶん穏やかな調子でレオナが続けた。
「気を抜くと、変な方向に行っちゃって戻って来れないわよ。──ちなみに、だいたい今飛んでるところの真下がテランかなぁ。うっかり見過ごしちゃいそうよね」
「メルルにも会いたいなあ──あの子、テランにいるの?」
「多分いないと思うわ。あの子、そこまで故郷に未練とかないみたいだったし……この前一緒にポップと3人で旅をした時も、私達は旅をするのが性に合ってる、って言ってたから、多分今頃はナバラさんとどこか別の国にいるんじゃないかな」
レオナは納得顔で頷いた。
「そうかー。テラン国王も高齢で王国の存続自体も危ういみたいだしね……メルルもまだ若いし、あんな老人ばっかのところにいても面白くないわよね。パプニカに来れば素敵な出会いがあるかもしれないのになぁー!」
レオナはわざと語尾を強調して言うと、ポップの様子を伺った。
──ポップはまだ目の焦点が合わずフラフラしている。
話を聞いていたのかどうかはよく分からないが、無視してポップはレオナに訊いた。
「話は変わるけどよ、姫さん、アバン先生とは会ったりするのか?」
「うん。アバン先生も今やカール王国の国王でしょ?国際会議なんかでたまに見かけるわよ。まぁ……だいたい見ると居眠りしてるんだけどね」
ポップとマァムが同時に吹き出した。
レオナが嬉しそうに続ける。
「で、フローラさんに叩き起こされたりしてる」
「ハハハ、なんか想像つくぜ」
「アバン先生、国王って柄じゃないもんねぇ」
ポップもマァムも心から可笑しいらしい。
「あの夫婦は奥さんがしっかりしてるからうまくいってるのよね。あーあ。なんか──そういうのって良いわよね……」
レオナが少し寂しそうにそう呟くと、マァムはいたわるような表情で言った。
「レオナも絶対、素敵な人と夫婦になれるわよ。フローラさんも長く待ったけど、結局はいちばん好きな人と一緒になれたんだから──」
「そうね……ありがとうマァム」
レオナは少しだけ寂しそうに微笑むと、一呼吸おいてから話し始めた。
「あっ、そういえば、ヒュンケルのことだけど──言ってなかったわよね」
「あいつ今どこにいるんだ?」
「エイミが知ってるみたいだったから、居場所を聞いたのね、そしたら」
「そしたら?」
マァムが身を乗り出した。
「教えられません──って」
「はぁ────っ!?」
ポップとマァムが同時に叫んだ。
「彼は今、体力が充実していて、心身の鍛錬に集中したい大事な時期なんです。彼の方には私から伝えておきます、とか言われてね……」
「勝手に女房ヅラかよ……」
ポップはつまらなそうに悪態をついた。
「私もなんて言おうか迷ったんだけど、あの子の事は信頼してるし、まぁ良いかなと思ってね……」
マァムは口をぽかんと空けている。
「だから多分、ヒュンケルにも今回の件は伝わってるはずよ────さあ、もうすぐ着くわ。うまく風に乗れると良いけど──」
遠くにカール王国の旗が揺れている──