「一応確認しておきますが、どうやって私を倒すおつもりですか──」
ブラフマが嘲るような表情で訊くと、ダイは眉ひとつ動かさずに答えた。
「──おまえは神なんだろ……?ならそれくらい分かるんじゃないのか?」
「──ふふっ……ふははははっ!!」
ブラフマは肩をすくめ、呆れたように笑った。
そしてベラ達を一瞥すると憐れむような口調で呟いた。
「さすがの勇者ダイでもこのザマですよ──大人しくしていればまだ苦しまなくて済んだものを……良いでしょう──少し早いですが、お望み通りの地獄に連れて行ってあげましょう──」
ブラフマは指をぱちんと鳴らすと、ダイを取り囲んでいた怪物達がいっせいにブラフマの方を振り向き歩き始めた。
支えを失ったダイはがくりと肩を落とし、膝をついてしまった。
ベホマの効果か、息は上がっているものの傷は殆どない。
怪物達に囲まれているブラフマは何かをごにょごにょと唱えると、首にかけている数珠のひとつを握った。
すると胸元から光が放たれ、その光が一瞬わっと明るくなった。
「うっ……!」
ベラが両腕で顔を隠した。
しかしすぐに光は消え、ダイ達とブラフマの間に見慣れたシルエットの人物が現れた。
美しい銀色の髪が魔界のくすんだ景色の中だと一層輝いて見える。
身体のキズやヒビは完全に復元されているようだ。
「ヒム!無事だったのだな!!」
クロコダインが叫ぶと、ヒムはゆっくりと目を開いた。
周りをぐるりと見渡し、状況を把握しようとしている。
「おっ……お前ら!」
「無事だったんだね。ヒム……!」
ダイが顔を綻ばせると、彼は固い表情で言った。
「ああ、そうか……オレとしたことがヘマ踏んじまった……お前らを巻き込むつもりは無かったんだが……すまねえ──」
ラーハルトが眉間に皺を寄せて訊いた。
「ヒム、お前は体に何もされていないのか──?」
「ああ──だけどよ……このままはい、さようならって訳にはいかねえみたいだな──」
そういうとヒムはブラフマを睨みつけた。
「ふふっ。よく分かってるじゃないですか──あなたにはこれから働いてもらわないと」
そう言うと、ブラフマは首の数珠を掴み、ブツブツと呪文のようなものを唱え始めた。
ダイ達が普段使っている呪文とは違う言語のようだ。
続いて歌のような節が付けられた詠唱を何度も繰り返しているうちに、呪文は一種の波のように広がり、一定のリズムでダイ達の体を揺さぶり始めた。
(──ザラキに似ているがこれは一体──?)
ベラが構えの姿勢を取りながら仲間達の様子を伺っている。
ダイやクロコダイン、ラーハルトも同じ様に辺りを伺っていた。
「うっ……!!」
突然ヒムが頭を押さえて苦しみ出した。
「ヒム!!」
ダイが叫んだ。
ヒムは何かに抗おうと耐えているように見える。
──それと同時に、ブラフマの周りにいる異形の怪物達の体が光り始めた。
「誰にも、どこにいても、何を使っても殺されない体を持つ、強く美しき者── 神の為の尊い犠牲となり、今こそ悪魔の子を討て──!」
詠唱をやめたブラフマが叫ぶと怪物達はさらに大きな光に包まれた。
そして次の瞬間、その光は3つに分かれ、ヒムの体の中に向かって飛んでいった。
光がヒムの中に入ると、空に立ち込めた暗雲から、一筋の稲妻が落ちてきた。
「ヒム!!」
轟音が鳴り響き、砂煙の中から現れたヒムの姿が見えた時、ダイは恐れ慄いた。
ヒムの顔の両側にそれぞれ竜と獅子の顔がついており、背中には竜の翼が生えている。
「お待たせして申し訳ありませんね。やっと完成しましたよ。竜、モンスター、魔族を組み合わせた最強の生物──『アシュラ』です。前から構想はあったのですが、この器になれる存在が魔界では見つからなかったのですよ──魔力の器としての強度とそれに耐えられるだけの精神、そして生命力、オリハルコンの坊やは奇跡的にそれらを全て満たしていました」
黄金色に神々しく光るヒム、いや、かつてヒムだったものがダイ達に立ちはだかった──