アシュラの体が怪しく蠢いていた。
ぴんと伸びていた背中が今は獣のように丸まり、小刻みに震えている肩から夥しい光が放たれている。
地鳴りのような声で咆哮をあげると、紫色の液体を飛び散らせながらもう一対腕が生えてきた。
「…………!」
ベラが微かに顔を顰めている。
僅かに荒くなっている呼吸を整えると、アシュラは胸の前で4本の腕で印を作り始め、異国の言葉であろうか──経のようなものを唱え始めた。
蛇のように動く指が次々と形を変えてていく。
その間、ダイたちは何故か体が凍りついたように動くことが出来なかった。
《不 空 大 ──》
それまで閉じていた目が開き、アシュラの全身が黄金の炎に包まれた。
そして、不思議な形に結ばれた手から凄まじい光線が放たれた。
全方位に散らばる黄金色の光と爆風──
ダイたちはすぐに防御の体制をとったが、ものすごい力で吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!!」
クロコダインが尖った岩に叩きつけられ、悲鳴を上げた。
ヴェルザー城の地面に木の葉のように散らばっているダイたちを確認すると、ブラフマは満足そうに笑った。
「分かりましたか──?あなた達に最初から勝ち目などないんです。最強の生物の前には小手先の工夫や努力など意味がないんです──」
「──そんなこと、よく言えるよ──自分が戦ってるわけでもないのに」
やっとのことで立ち上がったダイを見ると、ブラフマは忌々しげに言った。
「あなた達に何が分かるんですか──」
「えっ……」
予想外のブラフマの答えにダイが一瞬戸惑いを見せた。
「ん──?どうしましたか?」
気がつくと、ブラフマがアシュラの方を見ている。
その方向を見ると、アシュラが頭を抱え膝をついて震えているのが分かった。
(──ダイ……オレだ)
「──ヒム!?」
「やれやれ。一時的にオリハルコン坊やの意識が戻りましたか。頑固というか、なんというか──」
ブラフマが眉間に皺を寄せている。
(すまねえ──この体は……オレの意思ではもう自由に出来ねえんだ。合成された他のやつらも同じだろうよ……)
ラーハルトは顔色を変えずに聞き耳を立てている。
(──だから、もう気にするなダイ──オレはもう悔いなんかねえ。オレが死ぬ程憧れた《命》ってやつをこれ以上……こんなゲスな野郎に踏み躙られるくらいなら……お前に消して貰いてえ。──ハドラー様だって、お前だったら納得してくれるだろうよ──)
「……ヒム──!」
ダイが悲痛な面持ちでつぶやいた。
(オレが憧れた命ってやつは──ちっぽけだけど温かくて──心ってやつもオレなりに──お前らや、デルムリン島の仲間と暮らすうちに……わかってきたつもりだ。良いもんだよ──すごく──だから、もうオレは十分なんだ──)
クロコダインの目に涙が溜まっている。
(ダイ──お前の技で《空烈斬》だっけか?それでオレの魂だけを狙って破壊すれば、多分この怪物は体が維持できなくなるはずだ。上手くいけば他の奴らも助けられるかもしれねえ──それに賭けてみろ──今のお前なら、アバンストラッシュでも大丈夫かもな──何しろ止められるのはお前しかいない──その後、後ろにいるこのクソムカつくウジ虫野郎をぶっ飛ばしてやれ──頼ん)
ブラフマが後ろから頭を数珠で叩くと、がくりとアシュラは地面に倒れた。
「まだ出来栄えが不十分だったみたいですね──」