ベラは目を瞑り、精神を集中した。
耳に飛び込んでくる仲間の悲鳴や、鈍い打撃音を必死に頭の中から追い出すと、悲しげに喉を鳴らす竜の息遣いが聞こえてきた。
(──これだ……)
ベラは一呼吸おいて慎重にテレパシーで話し始めた。
(我が一族の者か──)
(──その声は…ベラ様なのですか──?ご無事だったのですね──)
(やはり……ああ──……一体どうしたのだ──?)
(ベラ様……あの男が我が子を──)
(そうであったか……すまなかった──私が不甲斐ないばかりに──)
(いえ、ベラ様のせいではありません──しかし息子はあの金色の怪物に取り込まれて……もうこうなってしまってはあの子を取り戻すチャンスは無いのでしょうか──)
(……その事だが、私達に協力してくれればそのチャンスを作れるかもしれない──)
──ベラが竜と交渉をしているその下で、ラーハルトはひとりでアシュラと対峙していた。
「ぐっ……」
4本に増えたアシュラの腕が容赦なくラーハルトの脇腹をえぐってくる。
ラーハルトは、攻撃の矛先がベラやダイに向かわないこと、その為に自らが致命傷を受けないこと、それだけを意識して戦っていた。
いや、ただ受け流して防御する事で精一杯だった──
(──この速さ……一瞬でも気を抜いたら終わるぞ──)
距離を取ることは容易い。
しかし、そうすると相手はビームなどの遠距離攻撃に切り替えて自分を狙ってくるだろう。
攻撃の間隔は開くかもしれないが、視野が広がり、相手の意識を自分に向けておくことが難しくなるかもしれない。
今は、接近戦を続ける事がベストだ──
そう思った瞬間、アシュラの左フックがラーハルトの顔面を捉えた──
「ぐっ……」
咄嗟に首を後ろに引いたせいで、間一髪顎を砕かれることは避けたものの、正確に急所を狙ってくるアシュラの攻撃は少しでも当たればダメージが大きい。
アシュラは顔色ひとつ変えずに、拳を突き出したまま相手の出方を伺っている。
ラーハルトはぺっ、と地面に唾を吐き、口元の血を拭った。
そして、にやりと笑って言った。
「オレは陸戦騎ラーハルト……簡単にくたばると思ってもらっては困るな──」
風が陸戦騎の髪を揺らした。
──上空──
ベラが作戦の内容を話すと、竜は快く承諾した。
(──分かりました。やってみましょう)
(──感謝する──ただ、あまり時間がない……すぐに行けるか?)
(はい──今向かいます)
(接近しすぎるなよ……)
ベラがちらりと背後を見ると、遠くに竜の姿が見えた。
(合図をしたら始めるぞ──)
暗い空にごう、と一陣の風が吹く音が聞こえた。