ばっ、と翼を翻す音がした。
ダイが音のした方を向くと、上空のベラがこちらを見ている──
彼女はダイを見つけると、こくりと頷いた。
ダイが頷き返すと、ベラは上半身を捻って遠くの空を眺めた。
遠くに黒色の竜がいる。
スカイドラゴンの一種だろうか──光沢のある鱗に覆われているようだ。
竜は首を下げたまま徐々にスピードを上げ、こちらに近づいて来た。
ベラは目の前を通る竜の背中に飛び乗ると、風を切るような音をさせてラーハルトたちの方に飛んでいった。
(頼んだよ──)
ダイは心の中で祈ると、瓦礫に身を隠しながら彼女達の後を追いかけた。
立ち込めた暗雲を貫くように稲妻が走った。
その向こうで──
ラーハルトとアシュラの戦いは熾烈を極めていた。
重い拳をギリギリで弾く。この動きを繰り返していると、時折ぐらりと意識が遠のく──
(くっ……これしきのことで……このザマではダイ様の盾になどなれん──)
その時、空の上から笛のような音が聞こえてきた──
(きたか──)
ラーハルトの顔に一瞬、安堵の表情が浮かんだ。
(息子よ──おお……あなたは主であるベラ様に何をしたか覚えていますか──?誇り高きヴェルザー一族の竜として、恥ずかしいとは思わないのですか──?)
ヒュルルルという高い音が辺りに響き渡る。
それと同時に、一瞬アシュラの動きが止まった。
「ん……?」
ブラフマが怪訝な顔をしている。
「何が起きている──?」
それもそのはず──
ベラと竜はテレパシーを使い、竜の言葉で話していた。
竜の言葉を理解する者以外には甲高い笛の音にしか聞こえない。
(お前はこの私──ベラの顔に泥を塗るつもりか──?誇り高き竜であるお前がこんな下賤のものたちに従うなど──こいつらはお前の仲間たちを蹂躙し、同志討ちまでさせたのだぞ……)
アシュラの周りをぐるりと旋回しながら、ベラと竜の母親が呼びかけると、アシュラは困惑した様子で頭を抱えた。
後頭部の竜の顔が悶え苦しんでいる。
「ああっ──っあああああ……ッ」
ついにアシュラはその場に跪いてしまった。
「なにっ──!?おまえたち……一体何を──」
狼狽しているブラフマの前でアシュラはうう、とくぐもった声を出した。
そしてしばらくすると身体を包んでいた黄金色のオーラは消えてしまった。
「くっ……あの竜と女──何をしたのかは分かりませんが、往生際の悪い── 」
数珠を掴んで駆け寄ろうとしたブラフマの動きが止まった。
「おい──オレを忘れてないか……?」
身体から煙を上げながら地面に伏せっていたクロコダインがブラフマの足首を掴んでいた。
「この死に損ないが──しかし、私の雷に打たれて動けるはずが──」
クロコダインは額に汗を浮かべながら言った。
「生憎、このくらいは日常茶飯事でな──それにオレが前にある男から受けた雷撃はこれより強力だったぞ……」
「あなたはどういう身体をしているんですか──?」
「お前のような小僧にオレは殺せん──」
その時、物陰に隠れていたダイが飛び出した。
「ダイ様!!!」
地面に片膝をついて、やっとのことで身体を持ち上げているラーハルトが叫んだ。
ダイは全速力でアシュラの方に向かって駆け出していく。
「うおおおおおお!!」
雄叫びを上げながら走り出したダイを見て、ブラフマは苛立ちながら叫んだ。
「くそっ──!どいつもこいつも!!」
(ダイ様──)
ベラが上空から不安そうな顔でダイを見守っている──