ダイは足元の黒い土を蹴り上げながら突進した。
遠くでブラフマがこちらを見て何か叫んでいる──
しかし、そんな事に構っている余裕は無かった。
ラーハルトがいる辺りまで来ると、ダイは前につんのめりそうになりながら、懐に忍ばせた筒のようなものを素早く取り出した。
そして蓋を開けると、それをうずくまっているアシュラに向かってかざした──
「──おい、何をしている!!」
慌てて走ってきたブラフマの怒号に被さるようにダイの声が響き渡った──
「イルイル!!!!!!!!」
呪文を叫ぶと同時にアシュラの身体は眩い光に包まれ、ぐにゃりとその姿を歪めながらダイの手の中にある金色の筒に吸い込まれていった。
あまりの事に呆然としているブラフマにダイは息を切らしながら言った。
「もう──誰も傷つけさせない……!」
──そして背中の剣に手をかけた。
しばし睨み合うふたり──
ダイの荒い息と風の音だけが聞こえていた。
ラーハルトやベラ達も固唾を飲んでその様子を見守っていた。
「──わかりましたよ……」
しばらくしてからブラフマはそう言うと、観念したというように頭を振った。
「一瞬のスキを狙ってその筒のようなものにアシュラを閉じ込める……実にふざけた作戦ですが──今わたしは多勢に無勢──私があなた達に勝てる可能性は低いと言わねばなりません──アシュラを生み出すのに既に相当な魔力を使ってしまいましたし──」
そう言うと、ブラフマは近くの岩にどさっと腰を掛けた。
しばらく俯いて何かを考えていたが、ゆっくり顔をあげると落ち着き払った顔で言った。
「──あなた達はどうせ私を殺すつもりでしょう──最後ですから、わたしの身の上話でも聞いてくれませんか──あなた達も聞きたいでしょう?どうしてわたしがこんな事をしているのか──」
ダイたちは急に態度が軟化したブラフマを訝しんだが、ダイが剣の柄から手を離したのをきっかけに皆構えを解いた。
それを見て、ぽつりぽつりとブラフマは話し始めた。
「子供の頃──周りと馴染めなかった私はいつもひとりでした──魔族の男たちはみんな乱暴で、下品で──誰が誰に勝ったとか、誰から何を奪い取ったとか、どの女を手篭めにしてやった、とかそういうくだらない話ばかりしていたので、わたしは彼らに全く興味が持てませんでした──彼らの事を心の中で軽蔑していましたよ──こいつらは何のために生きているんだろう、ってね──そんなある時、小さなネズミが町で売られているのを見かけました。なぜか心惹かれた私はそれを買って帰り、部屋で飼うことにしました」
「──ネズミ?」
ダイが不思議そうな顔で訊いた。
「ええ、そうです。たまに商人がそういったものを売っていることがあるんですよ。白地に茶色い模様のある小さいやつです──私はそのネズミをカゴに入れて飼っていました。毎日よく世話をしましたよ。出してやると不思議そうに辺りを嗅ぎ回るんです。その様子が好きで私は飽きずにずっとそれを眺めていました──」
「ある時、私にも親友と呼べる友だちができました。彼は私よりも体が小さく、力も弱かったけれど魔族なのに正義感が強く、曲がった事が許せない性質でした。そのせいで周囲とトラブルになることもしょっちゅうだったようです──わたしたちはお互いを似たもの同士だと感じ、すぐ仲良くなりました」