「ある時、彼は街で乱暴な男が騒いでいたので注意をしたそうです。その男はそれがだいぶ気に障ったようで、それ以来自分のガールフレンドに色目を使ったとか、陰で自分達の悪口を言っているとか、有る事無いこと因縁をつけて友達に付き纏うようになりました。そして、私と仲が良いと分かると、そいつは私の家にも乗り込んできました。彼も私も無視を決め込んでいたのですが、ある晩、酒に酔ったその男が私の家までやってくると一緒にいた友達を強引に連れていってしまったのです。自分は何も言い返せませんでした。心の中では日頃から目を付けられるような事をしているのが悪い、とさえ思いました──」
ひとつ咳払いをすると、ブラフマは話を続けた。
「──翌日、友達は川のそばで頭を殴られて死んでいました。私は恐ろしくなりました。それ以来その男は家には来ませんでしたが、私はこれまで馬鹿にしていた奴らと意識して少しずつ付き合うようになっていきました。相変わらず話は合いませんでしたが、できるだけ相手を理解しようと努めましたよ。遊びにも付き合いましたし、時には家に呼んだりもしました──私なりに周囲と馴染もうとしていたんです。ある時、私が何かヘマをしたかなんかで、彼らのひとりに責められました。私は平然としていましたが、昔、川で殺された友達と仲が良かったことを馬鹿にされたんです。あいつはクズ野郎だったと。私はなんでもないフリをしてやり過ごしましたが、内心腑が煮え繰り返る思いでした──」
「私は家に帰ると珍しくイライラして部屋の中で暴れました。机を蹴ったり、ものを投げたり、壁を殴ったり。私は気がつくと机の上の籠が空になっていてネズミがいない事に気づきました。部屋中を探し、隅に投げた椅子をどかすと、その下に体が半分潰れてもがいているネズミを見つけました。私は目の前が真っ暗になりました。私は気づくとネズミを麻袋に入れて、めちゃくちゃに石で叩き潰していました。中でちっちゃな骨が割れる音がしました。──弱い事が、力がないことが全て悪かったんです。友達も、ネズミも強ければ何も起きずに済んだ──力が弱いものはいくら正しいことをしていようと、生きていくことはできないんです──私は悟ったんです。それからすぐの事でしたね。私がビシュヌに会ったのは──」
ダイたちは絶句している。
「──だから、私にはアシュラが、完璧な強さを持つ存在が必要なんです──この世界のためにも──」
ブラフマはヨロヨロと立ち上がり、顔を上げた。
そして、ブルっと震えると、大声で叫んだ。
「返せ!!!!!!返せよ!!!!!」
次の瞬間、数珠を掴んだブラフマはダイに向かって飛びかかった。
ダイは咄嗟にブラフマの打撃を剣で受け止めた。
ものすごい力で地面に押し込まれそうだ。
どこにこんな力が残っていたのだろう──
「お前は……間違ってる──」
ダイは鬼のような形相のブラフマを睨んで呟いた──