ホロライブ・オルタナティブver.IF外伝 ~ラプラスの野望~ 作:天野空
そこは【ゲーマーズ】のとある山の中にある神社。
特別な事がない限りあまり人がこない秘境神社だ。
その神社の名は白上神社。
【ホロライブワールド】の複数いる神のうちの一神、狐神を祀っている。
そこに今回、1人の侍と冒険者が訪れていた。
(では、様子を見てくるでござるからこよちゃんはここで待ってるでごさるよ)
(了解~)
隣に一緒に隠れるロック(こより)に専用通信で伝えた後、いろはは気配を隠しながら神社の中へと進んだ。
(かなり神社の中は手入れが行き届いているでござるな)
いろははそう思いながら神社の中を探索する。
【ホロライブワールド】はゲームとはいえ、放置すると草が生え荒れ地になってしまうという変にリアルに忠実に作られている。
(誰かが毎日手入れしているのでござろうな)
なぜか嬉しくなり笑顔になってしまういろは。
いろはがそんな事を考えながら忍んで進んでいると、ある花壇が見えてきた。
そこには1人の亜人女性が鼻唄を歌いながら水をあげている。
後ろ姿なので白くてふさふさの大きな尻尾がゆらゆら揺れているのと、可愛い耳がピョコピョコ動いているところしか見えないが、あれはまさしく今日のターゲット、白上フブキだった。
いろははその可愛い姿に後ろから抱きしめたくなる気持ちを押さえつつゆっくりと近づく。
「そんなに忍者のように隠れなくてもいいですよ」
「!!」
フブキは花壇の方に向いたまま、そう言った。
「忍者ではござらん。
侍でござる!」
とっさに声が出るいろは。
「え?
気配を消して忍びよってくるのって忍者じゃないの?」
そう言ってフブキは笑顔で振り向いた。
いろははふぅと息を吐いて気配を消すのを止める。
「別に侍でも気配を消す事ぐらいするでござるよ」
「そうかなぁ?」
相対するフブキといろは。
「メルちゃんやアキちゃんの言ってた通り、動き出したんだね、第六世代組。
ま、ラプちゃん率いる第六世代組だから何かするだろうなとは思ってたけど。
いろはちゃんはそれでいいの?」
「…ま、用心棒でござるから」
フブキの問いに少し間をとり、頭をかきながらいろはは答えた。
「というわけでフブキ先輩。
少し手合わせ願うでござるよ」
そう言っていろははチャキ丸に触れる。
相手はじょうろを持った丸腰。
しかし、いろはは尋常じゃない相手だと分かっている。
「おいおい、私らの神社で好き勝手してんじゃねぇよ」
「な」
その声にいろははとっさに横に跳ぶ。
神社の境内からもう1人亜人女性がいろはを見ていた。
(気配に気づけなかった?)
いろははその亜人を見る。
その姿はまさに白上フブキそのもの。
だが目付きが少し悪いのと、黒い髪に着ているものも黒が主だった。
「こらこら、脅かしちゃダメですよ」
「うっせぇ、こっちはゆっくり寝てたっていうのに変な気配出しやがって」
そう言ってヤンキー座りの黒フブキは肩にトントンと鉄棍棒を当てる。
「ごめんねいろはちゃん、2対1になっちゃったけどやる?」
そう言って笑顔で白フブキが言った。
「…」
何も答えず、いろはは白フブキを見た。
「もちろん、やりますよ」
そう言っていろはの足元で両拳を胸の前で当てるマスコットゴブリン。
「付いて来てたでござるか?」
いろはは優しくそのゴブリンに言った。
「もちろんですよ、私はいろはさんの使い魔ですから、封印解除」
ゴブリンはそう言って自らの封印を解く。
光に包まれ姿を表したのはゴブリンではなくマモリだった。
「やっぱり、その子達を味方にしてたんだね」
マモリを見て白フブキが言う。
「それもラプ殿の計画の一部でござる。
これで数では同じでござるな」
いろはは笑顔で白フブキに言った。
「なら、問題ないか」
白フブキの持つじょうろが形を変えて短刀になった。
「よっ」
黒フブキも境内から飛び降りる。
「いろはさん、私はあの黒い方を」
「分かったでござる。
任せるでござるよ」
今回の作戦は白フブキとの戦闘中に運悪くお参りに来たロックと接触させる事。
なのでそれを悟られないように白フブキには、戦闘に集中してもらわなければいけないかった。
(お参りする場所はここからだいぶ離れているでござる。
どうにか移動しないと)
いろははそう考えながらチャキ丸を抜く。
マモリも拳を構えて黒フブキと相対した。
「手加減しなくてもいいんだよな?」
黒フブキが白フブキに聞いた。
「手加減なんてしてたらやられちゃうかもよ」
「うっせぇ」
白フブキの言葉に黒フブキはぶっきらぼうに答えてから、鉄棍棒をマモリの方に向ける。
「というわけだ、手加減なんかしねえぞ」
「望むところ、なんかうちのベルに似てる性格みたいだろうし、思い切りやるよ。
それにある意味リベンジだからね」
「へ」
マモリの言葉に黒フブキは笑顔になる。
「では、こっちも手加減なしで行きますよ」
「構わないでござる。
こちらも本気でいかせてもらうでござる」
お互いに笑顔の白フブキといろは。
そして、戦いが始まった。
「おらぁ~」
ドカ!
黒フブキの鉄棍棒のアッパーにより、マモリは大きく上へと打ち上げられた。
「場所変えとく」
そう白フブキに言って黒フブキは社の屋根へと飛び上がりマモリを追いかけた。
「では、行くでござるよ」
ゆっくりと前に倒れるいろは。
そして、姿が消えた?
ギャン!
白フブキはいろはの攻撃を刀で受け止める。
強靭な脚力で一気に間合いを詰め攻撃したいろはだが、白フブキはそれに軽くついてきていた。
「やるでござるな」
つばぜり合いをしながら言ういろはの顔は嬉しそうだ。
「このくらいはね」
そう言った白フブキの気配が変わる。
とっさに後ろに跳び距離を取るいろは。
目の前の白フブキはいつの間にか白い獣のような気を纏っていた。
「それが狐神の神気でござるか」
「そ、本気で行くって言ったでしょ?」
白上フブキは神の力を使える特殊世代でもあった。
その為、狐神の力をその身に纏い鎧のようにする事が出来る。
そして、武器にも。
白フブキの刀も神気を纏い白い刃が大きく伸びる。
短刀のような刀が今は大刀のようだ。
「さぁ、少しは楽しませてほしいな」
大刀を構える白フブキが言う。
「もちろん、風真も楽しませてもらうでござる」
そう言っていろははもう1度白フブキとの間合いを詰めた。
「おらおらおらおら」
屋根の上で黒フブキの棍棒乱打をマモリはどうにか受け流していた。
「やるじゃねぇか」
笑顔でそう言う黒フブキは、重たそうな鉄棍棒を片手で振り回すようにマモリを攻撃している。
それはまるで黒い竜巻のようだ。
マモリはその攻撃をきちんと目で追い確実に拳を当て受け流す。
(ホロメンではないにしろ、さすが第一世代組の分身体やるなぁ)
マモリは笑顔の黒フブキを見てそう思った。
マモリは攻撃を受け流しながら拳に力を溜める。
そして「そこ!」
マモリは黒フブキが鉄棍棒を振り上げたその一瞬をつき正拳突きを放った。
拳は黒フブキには届かない。
しかし、溜めていた気が気弾となって黒フブキに当たる。
「うわぁ」
黒フブキはたまらず後ろに下がった。
「そんな事も出来るのか」
鉄棍棒を下ろし黒フブキはマモリを見た。
「なら、長ものを振り回すのは得策じゃないな」
そう言って黒フブキは鉄棍棒を後ろに投げる。
鉄棍棒は屋根に当たる前に消えた。
「拳同士でやりあうか」
黒フブキはそう言って拳を構える。
その手は白フブキと対照的に黒い気を纏っていた。
「その力はあの力ではないみたいだね」
黒フブキの気を見てマモリは呟く。
「なんだ?」
「いや、なんでも。
それじゃ、いくよ!」
黒フブキの問いにマモリはそう答え、間合いを一気に詰める。
「お!」
間合いを詰めてすぐに放ったマモリの右のボディブローを拳で下に打ち落とす黒フブキ。
すぐさま左の正拳突き。
黒フブキは後ろに下がり紙一重で避ける。
が、またもや気弾。
「く」
まともに受け黒フブキは後ろに下がらされる。
間髪いれずマモリは追い討ちの右ストレート。
しかしそれに合わせて黒フブキはカウンターを入れる。
黒フブキの方がリーチが長い。
カウンターで確実に顔をとらえられるはずが、マモリは左手でその拳を防いでいた。
マモリはそのまま右手で黒フブキの腕を取り、両手を使って上へと黒フブキを投げる。
黒フブキは空中で回り体勢を戻した。
そこへマモリは両手で溜めた気を黒フブキに放つ。
極太のレーザーのような気が黒フブキを襲うが、黒フブキはその両手で気を空へと方向転換させ、その勢いで屋根へと降りる。
屋根に足がついた瞬間、黒フブキはマモリへとダッシュ。
まだ両手を構えているマモリの懐に入りアッパーを放った。
マモリはどうにかその攻撃に対応、腕をクロスにして防御したのでダメージは多くないが後ろへと吹き飛ばされた。
くるんとバク転して屋根に足を着けるマモリ。
「やるねぇ」
「そちらこそ」
お互いにそう言い合ってニヤリと笑った。
「じゃ、これはどうだ?」
マモリとの間合いを詰めた黒フブキが胴を目掛けて右の蹴りを出した。
マモリは落ち着いて左腕でブロックした後すぐにその足を右手で掴もうとする。
しかし、その足がすぐに戻る。
嫌な予感がしたマモリは右腕で右胴をブロックする。
思った通りそこに黒フブキの左蹴りがきた。
(二段蹴り)
マモリはそう考えながら黒フブキの顔を見る。
その瞬間、黒フブキが笑った。
(違うこれは…)
マモリはすぐに両手をお腹の前でクロスしようとしたが遅かった。
黒フブキの鋭い前蹴りがマモリのお腹を蹴り、マモリは後ろに跳ばされた。
「く、三段蹴り」
「気づくのが遅かったな」
お腹を押さえながらマモリは黒フブキを見る。
(考えを改めないといけない。
この相手の強さはホロメンクラスだ)
マモリは気合いも新たにして黒フブキに構えた。
「上はなかなか賑やかでござるな」
いろはは白フブキの方に構えたまま言った。
「そうだね、楽しそうでなにより」
そう返し白フブキは笑う。
「では、こちらも仕切り直しでござる」
またも一瞬で間合いを詰めるいろは。
しかし、白フブキはその詰めてくるいろはを先に斬りつける。
大刀に袈裟斬りにされ、いろはは大きく目を開く。
そしてポンと煙となって消えた。
「?!」
消えたいろはを見てから白フブキは、背後に大刀を薙ぎる。
「少し遅いでござるよ、フブキ先輩」
白フブキの大刀を飛び越えいろはの面斬りが、白フブキの頭に当たる。
しかし、神気で守られた頭は傷1つ付かないが、白フブキは背後に大きく跳んだ。
「変わり身…やっぱり忍者?」
「違うでござる!」
白フブキのぼそっと言う言葉に大きな声で反論するいろは。
「さっきのは白上の技だよね?」
いろはの返答に微笑みながら白フブキが聞く。
「そうでござる。
使わせてもらったでござるよ」
いろはは特殊能力として魔眼を持っている。
【模倣真眼】を使いフブキの力を真似たのだった。
前までは見たものを真似る事しか出来なかったが、今は一度使った技なら使った本人を見ていれば使えるようにレベルアップしていた。
「十八番を取られるとなんか癪ですね」
そう言いながらも白フブキの笑顔は崩れない。
(よし、場所代えは出来たでござるな。
後は押すのみ)
計画通り、白フブキの背後の方にお参りする場所がある。
変わり身をした事で、変わり身をしても変わり身で返せるという事を見せ、白フブキの変わり身を封じたのだ。
(いくでこざる)
いろはは【模倣真眼】を発動。
いろはは体に緑色の気を纏う。
色は違えど白フブキの纏うそれと同じだ。
チャキ丸も緑の気を纏い刃が長くなっている。
いろはの連続攻撃に、白フブキは防戦一方で後ろに下がらされる。
(このまま押す!)
そういろはが思った時に、突如専用通信でこよりから連絡がきた。
(いろはちゃん?)
(なんでござるか?
今、そちらにフブキ先輩を連れていってるでござるよ)
(そうなの?
でも、今はヤバイかも。
GMが来ちゃってる)
(なんと!)
こよりの言葉に内心驚くいろはであった。
時は少しさかのぼる。
いろはがフブキと相対した事を、手元の機械で知ったこよりは隠れるのを止め、賽銭箱のあるお参りする場所にゆっくりと向かった。
「お参りですか?」
そんな時だ、ちょうど境内に入る前に誰かに声をかけられた。
「え?」
ロック(こより)は声をかけられた方に振り返る。
そこには笑顔の可愛い1人の女性が立っていた。
「え?あ、はい、近くまで来たもので」
秘境と呼ばれる場所で、近くまで来たものもないだろうと言った後で気づくこより。
しかしその女性も笑顔で「私もです」と答えた。
「近くにくるとどうしても寄ってしまうんですよ」
そう女性は言いながらこよりと共に境内に向かう。
「えっと名前聞いてもいいですか?」
「あ、ごめんなさい。
私はカーディアと言います」
そう言って手を差し出すカーディア。
こよりはその手をとって握手し「ロックです」と名乗った。
(プレイヤーの人かな?)
こよりはカーディアを見ながら考える。
(しかし、ここによく立ち寄ってるような感じがする)
「え?」
そんな事を考えながらカーディアの横顔を見ていると突然カーディアが立ち止まり屋根を見て驚く。
「どうかしたんですか?」
「フブキちゃんと誰かが戦ってる気がする」
「え?」
(まさか、プレイヤーがイベントキャラである私達を察知出来るわけ)
「ううん、間違いない。
これはフブキちゃんが誰かと戦ってる時の気配」
(ええ~!
確かに今、フブキ先輩はいろはちゃんと戦ってるけど、なんで分かるの?)
カーディアの変な能力にびっくりしていたこよりは、カーディアがしている事に一瞬気づけなかった。
「よし、これで大丈夫」
「え?何したんですか?」
カーディアの言葉にこよりは不思議そうに聞く。
「あ、GMに連絡したの」
(ええ~!)
行動の早いカーディアにこよりはただ驚くだけだった。
それから少ししてGMが到着。
2人来たGMにこよりは見覚えがあった。
(確かヒーロとリィス)
資料で見た今後計画の邪魔してくるであろうGMチームαの2人だ。
「何か問題ですか?」
ヒーロがカーディアに聞いている。
(これはヤバイかも)
そう思いこよりは専用通信でいろはに連絡したのだった。
(どうしようか?)
専用通信で少し焦りながらこよりはいろはに聞く。
(後少しでそちらに着くござるよ)
戦いながらの為、いろはも焦っていた。
(わ、分かった。
とりあえず槍を召喚するね)
そう言ってこよりはholoX城の自分の研究室に信号を送る。
こよりの専用研究室にある1本の槍が転送された。
(きた)
こよりはチラッと空を見る。
そこには何かがこちらに向かって落ちてくる音がする。
「な、なんだ?」
「え?」
ヒーロが音に気付き周りを見る。
カーディアとリィスも同様に周りを見ていた。
「上です!」
こよりは空を指差し声をあげる。
「うわ、避難!」
ヒーロの声に4人は何かが落ちてくるであろう場所から距離を取る。
そして、それは落ちてきた。
「あれは例の槍!」
ドン!と凄まじい音と共に落ちてきたそれを見てヒーロが叫ぶ。
槍は振動し始め特殊なフィールドを発生させた。
「え?」
「うわぁ」
何かにぶつかりこよりは叫んでしまった。
特殊フォールドが発生した、その瞬間こよりの横でいきなりフブキが現れ、ぶつかったのだ。
もつれあって倒れるこよりとフブキ。
それをあちゃぁとした顔で見守るいろは。
「ごめんね、まさかぶつかると思ってなくて」
そう言ってフブキは倒れたこよりに手を貸した。
こよりはその手を握って立ち上がる。
(あ、ここだ)
「助けてくれてありがとうございます。
僕はロック。
えっと、あなたは?」
そう思ったこよりはフブキに言った。
「あ、白上フブキだよ。
本当にごめんね」
そうフブキは答えてくれた。
(ナイスでごさる。
こよちゃん。
マモリ、撤退でござる)
こよりを見て、いろはは屋根の上のマモリに通信を送る。
(え?
任務達成ですか?
了解っと危ない。
戻ります)
戦闘中か、返事は途切れ途切れだ。
しばらくすると屋根から1つの影がいろはの後ろに降りてくる。
そして、もう1つ音もなくフブキの後ろに降りてくる。
マモリと黒フブキだ。
「さすがにGMが出てきたら分が悪いでござる」
そう言って手元の機械を動かすいろは。
背後にワープホールが現れる。
「では、いずれまた」
そう言っていろはとマモリはワープホールに消えた。
みんながいろは達の方を見ている間に、こよりも静かにその場所から立ち去りログアウトしていた。
「お疲れさま」
トンと机にお茶を置くこより。
「ありがとうでござる」
そう言っていろははお茶を飲んだ。
ここはholoX城のこよりの研究室。
作戦が終わった後、2人はここに戻ってきた。
「しかし、焦ったでござるよ。
まさか、戦っているのを悟られるとは」
「あれから少し調べたのですけど、あのカーディアって人、前回の事件の時に世界の答えと共に冒険した人みたいだったんです」
「なるほど、それでホロメンと絆が出来ていたのでござるな」
「そうみたい」
こよりも椅子に座りお茶を飲む。
「これからもこういった予測不能な件が出るかもしれないので対策を考えとかないと」
「確かにそうでござるな」
「ん?どうかしたいろはちゃん?」
少し元気のないいろはに声をかけるこより。
「いや、なんでもないでござるよ」
そう答えるいろは。
しかし、彼女の脳裏にフブキの言葉がよぎる。
(「いろはちゃんはそれでいいの?」
どうでござろうな?
本当は風真も分からないでござるよ、フブキ先輩)